ChatGPTやPerplexity、Google AI ModeといったAIで情報検索をかけると、AIは迷わずいくつかの候補を挙げてくれます。そのとき「自分の会社・サービスが出てこない」と思ったことはないでしょうか。この“選ばれる/選ばれない”を分けているマーケティング手法が、GEO(Generative Engine Optimization:生成エンジン最適化)です。SEOはすでにおなじみでも、GEOはまだ聞き慣れないという方が多いはず。しかし誰もがAIで検索するこの時代において、AIに選ばれるかどうかは、ビジネスチャンスにおいて大きな問題です。本連載「GEOのイロハ~“選ばれる”AI対策」では、このGEOについての基礎と対策を、生成AIによる情報収集が急速に広がる「観光・宿泊業界」を例に挙げながら、ひとつずつ学んでいきます。
教えていただくのは、観光・宿泊業界のGEOコンサルティングを手掛けるTerrace Roots。業界を問わず押し寄せているGEOの重要性を、紐解いていきます。初回は、GEOの正体と、なぜ今これほど重要視されているのかを見ていきましょう。(文=Terrace Roots 松井 拓未さん、編集=AI Base編集部)
▼AI活用のヒントを毎日掲載!
AI活用の基盤をつくる『AI Base』
教えていただくのは…

株式会社Terrace Roots 代表取締役
松井 拓未さん
元ホテル支配人を経て、宿泊業界に特化した GEO(生成エンジン最適化)コンサルティングを展開する株式会社 Terrace Rootsを設立。ChatGPT や Google AI といった生成 AI に「正しく引用・推薦される宿」をつくるブランドストーリー設計やメディア発信支援、AI 引用診断・研修を提供。全国の温泉地・宿泊施設を対象としたAI推薦調査などを継続的に実施。LinkedIn Travel & Tourism 分野で Japan Top 10 の Top Voice にも選出。
GEOをひとことで説明するなら、「AIのおすすめに載ること」です。少しわかりにくいので、寿司屋にたとえてみましょう。
SEO(検索エンジン最適化)は、“メニューに載ること”にあたります。お店の情報がきちんと整理され、検索した人がメニュー表(検索結果)の中から自分でお店を見つけられる状態をつくる取り組みです。掲載されていなければ、そもそも候補にすら入りません。長年、多くの企業がここに投資をしてきました。
一方、GEO(生成エンジン最適化)は、“大将のおすすめ”に近いものです。お客さんが「今日は何がいいですか」と聞いたときに、大将(AI)が数あるネタの中から「今日はこれが一番です」と自信を持って薦めてくれる状態を目指します。メニューに載っているだけでは足りません。大将に選ばれる理由――鮮度や産地、仕入れの背景といった、“語れる情報”にが必要になります。
SEOとGEOの違い(寿司屋のたとえ)
この“語れる情報”というのが厄介で、単に情報量が多ければよいわけではありません。誰が、いつ、どんな文脈で語っているか。一次情報なのか伝聞なのか。専門性や実績に裏付けられているか。AIはこうした要素を手がかりに、無数の情報の中から「自信を持って薦められるもの」を選び出しています。この仕組みについては、次回以降で詳しく解説していきます。
似た言葉に「LLMO(大規模言語モデル最適化)」がありますが、これはGEOとほぼ同じ意味で使われることが多い言葉です。本連載では、生成AIの検索・推薦機能に焦点を当てる観点から、一貫して「GEO」という言葉を使っていきます。
大切なのは、SEOが不要になったわけではないということです。メニューに載っていなければ、そもそも大将はお客さんにその日の仕入れの話すらできません。GEOはSEOの“次”ではなく、SEOという土台の上に積み重なる、もう一段先の取り組みなのです。
◆ 今すぐ試してみましょう
百聞は一見にしかず。ChatGPTやPerplexity、Google AI Modeを開き、「(あなたの業界・エリア) おすすめ」と入力してみてください。自社の名前は挙がったでしょうか。それとも、聞いたことのない競合や、意外な顔ぶれが並んだでしょうか。この結果こそが、今のあなたの会社の“GEOの現在地”です。次回以降、この結果を変えていくための具体的な考え方を一緒に見ていきます。
この現実を、身をもって体感された方がいます。宿泊業界で長年愛されてきた、ある老舗の大型ホテルでのご相談時のことです。想定していた競合は、同格の高級旅館でした。ところが実際にGEO診断の結果をお見せすると、その場は言葉を失うほどの沈黙に包まれました。AIが繰り返し名前を挙げていたのは、開業して歴史の浅い、客室数もはるかに少ない、小さな宿だったのです。「まさか、うちがあんな小さくて歴史の浅い宿に、AI推薦で負けているなんて」――絶句する、という言葉がまさにふさわしい瞬間でした。
旅行先や宿を決める際、従来の検索エンジンだけでなく、ChatGPTやGoogleのAI Modeに「おすすめの温泉宿を教えて」と尋ねる人が、確実に増えています。従来のように十件、二十件のリンクを自分で見比べるのではなく、AIが一つか二つの答えを差し出してくれる形に、情報収集そのものの姿が変わりつつあるのです。
この老舗ホテルの事例は、決して特殊なケースではありませんでした。当社が全国8つの温泉地・81施設を対象に、クチコミサイトでの評価と、生成AI(ChatGPT/Perplexity/Google AI Mode)による実際の推薦状況を比較調査したところ、クチコミランキングに掲載されている施設のうち30.9%が、どのAIからも一度も推薦されない「推薦ゼロ」という結果になりました。中には、クチコミランキングで1位と評価されている施設ですら、AIには一度も推薦されないというケースもありました。逆に、安定して複数のAIから繰り返し推薦されていた施設は、全体のわずか11.1%にとどまっています。

この調査結果を、実際に支援先の宿泊施設の方々にお見せしたときの反応も、印象的なものでした。クチコミの評価を上げるために、スタッフ総出で真摯に接客に向き合い、丁寧な返信を積み重ねてきた施設ほど、強い衝撃を受けられました。良いサービスを提供すれば、いずれ正しく評価される――そう信じて積み重ねてきた努力が、AIという新しい評価者の前では、必ずしもそのままの形では伝わっていなかったのです。筆者は、この現象を「努力神話の崩壊」と呼んでいます。
クチコミの評価が高いことと、AIに選ばれることは、必ずしもイコールではない――これが、今、宿泊業界が直面している現実です。理由は単純で、AIは星の数や点数だけを見ているのではなく、その施設について“語られている情報の質と量”を手がかりに、おすすめを組み立てているからです。星4.5の施設であっても、語られている情報が乏しければAIは選びようがありませんし、逆に評価数が少なくても、具体的で信頼できる情報が豊富に語られていれば、AIに拾われる可能性は高くなります。
宿泊業は、口コミサイト・自社サイト・SNS・プレスリリースなど、オンライン上の情報量が特に多い業界です。だからこそ、GEOの効果や課題が数字として可視化されやすく、他業界に先駆けて対策の必要性が突きつけられていると言えます。今、宿泊業界で起きていることは、遅かれ早かれ、他の業界にも訪れる変化の縮図なのです。
ここまで宿泊業界の話をしてきましたが、この変化は宿泊業に限った話ではありません。生成AIに「おすすめを教えて」と尋ねる場面は、飲食店選びでも、リフォーム会社や士業選びでも、企業間取引の発注先を比較検討するときも、これからますます増えていきます。飲食店であれば、予約サイトの評価点だけでなく、食材へのこだわりやシェフの経歴が語られているかどうかが問われるようになるでしょう。士業であれば、対応地域を掲載しているだけでは足りず、実際にどんな相談にどう向き合ってきたかという実績の語られ方が問われます。業種が変わっても、AIが見ている本質は変わりません。
自社の情報がインターネット上に存在していても、AIに“選ばれる形”で存在していなければ、AIの回答の中でその存在ごと省かれてしまう――GEOが問いかけているのは、その一点に尽きます。従来のSEOで培ってきた「見つけてもらう」努力に加えて、これからは「選んでもらう」ための情報設計が、業種を問わず必要になっていきます。宿泊業界で先に表面化したこの課題に、他業界より一歩早く向き合っておくことは、決して無駄にはなりません。
次回は、AIがどのような仕組みで“おすすめ”を組み立てているのか、その舞台裏を見ながら、AIに理解されやすいコンテンツ設計の考え方を具体的に解説していきます。
▼AI活用のヒントを毎日掲載!
AI活用の基盤をつくる『AI Base』