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2026.08.10

住民への説明責任を果たす「行政評価」に、AIはどう生かせるのか? 杉並区の挑戦

子育て、防災、福祉。自治体が手掛ける施策は多岐にわたり、その成果を検証する「行政評価」は、住民への説明責任を果たすための重要なプロセスである。一方、プロセスを支える現場は、膨大な報告書の山に追われてきた。部署ごとに異なる記載形式、職員によって揺れる評価基準。散在する情報の断片を整理するだけで多大な工数が費やされ、肝心の施策改善にまで知能を割けないという構造的な課題が、多くの自治体で解消されずに残されてきた。
2026年7月、富士フイルムビジネスイノベーション株式会社および富士フイルムビジネスイノベーションジャパン株式会社と、杉並区が行った実証実験は、この評価のばらつきをデータの力で解消を目指す試みだ。AIが文書の意味を理解し、異なる形式の情報を一つの構造へと統合する。行政評価をルーチン業務から、客観的なデータに基づく戦略的な意思決定に変革させるための挑戦が、東京・杉並区から動き出している。(文=AI Base編集部)

「認識・構造化」AI技術が鍵。非定型文書を“共通のデータ構造”に

2026年7月7日に発表された本実証実験は、杉並区の行政評価業務を対象に、富士フイルムビジネスイノベーションのコア技術である「認識・構造化」AI技術と生成AIを活用したものである。最大の特徴は、事業計画や実績データ、過去の評価結果、さらには他自治体が公表する関連文書といった複数の非定型文書を、AIが共通のデータ構造へと自動変換する点にある。

具体的なワークフローを見ていこう。まず「認識・構造化」AI技術が、異なる形式で作成された文書を施策単位で分解・整理する。その上で、生成AI(行政評価AIエージェント)が情報を分析し、評価文案を提案する仕組みだ。職員はサイボウズのkintone(キントーン)上に構築された環境で、自身の入力内容とAIの提案を比較しながら確認や修正を行える。

(引用元:PR TIMES

実証実験の成果として、過去の評価結果や他自治体の事例との横断的な比較・分析が可能になることが確認された。これにより、情報整理にかかる時間の削減だけでなく、評価内容のばらつきの抑制に対する有効性が示されている。単なる文章作成の自動化にとどまらず、多角的な分析を可能にするための基盤を整えた点が、本ソリューションの実戦的な価値といえるだろう。

「記録」から「ガバナンス」へ。AIが支える行政の透明性

杉並区における今回の取り組みは、自治体経営におけるAIの役割が「事務の補助」から、行政判断の質を担保する「インフラ」へと移行したことを物語っている。

これまで、自治体間や年度間での施策比較を困難にしていた要因は、用語の定義や評価指標の不統一といった「非構造化データの形式差」にあった。今回の実証で示された情報の構造化は、多様な形式を共通のデータモデルへと正規化するプロセスに相当する。横断的な分析が容易になることで、今後は他地域の成功事例を自らの施策立案に即座に反映させる「ナレッジの汎用化」が加速するだろう。これは、各自治体の独立性を保ちつつ、実務レベルでの広域連携を強化するための有力な手段となる。

また、職員の主観に左右されない客観的なデータに基づいた評価案が提示されることで、住民に向け説明を行う際の、説得力も向上する。このように、技術を介して評価プロセスに一貫した論理性を導入することは、行政評価を通して「行政の品質」を証明することにも繋がるはずだ。

2026年現在、自治体DXの焦点は単なるペーパーレス化を超え、行政判断の透明性をいかに高めるかというフェーズへ移った。富士フイルムビジネスイノベーションおよび富士フイルムビジネスイノベーションジャパンが提示した「認識・構造化」AI技術と生成AIの組み合わせは、持続可能な公共サービスを実現するための重要なインフラとなる可能性を秘めている。情報の壁を取り払い、知を構造化する試み。未来の自治体のあり方を変えうるものといえるはずだ。