スマートフォンアプリの利用拡大を背景にした問い合わせの増加に、コールセンターは対応の限界が見え始めていた。オペレーターは疲弊し、顧客はつながらない電話にいら立ちを募らせる。こうした顧客対応の最前線が抱える負荷を、テクノロジーと人間の巧みな連携によって乗り越えた事例が公開された。AIによる自動化とプロのオペレーションを融合させた新たな体制が、企業の顧客接点をどのように高度化させるのか。金融機関での実践からビジネスのヒントを探る。(文=AIBase編集部)
2026年6月、コンタクトセンターの運営やデジタル技術を活用したBPOサービスを展開するビーウィズ株式会社は、城南信用金庫における顧客接点DXの事例を公開した。生成AIチャットボット「Tetory(テトリー)」の導入と、コンタクトセンターの運営支援を一体化させた実務的な取り組みだ。
(引用元:PR TIMES)
地域に根ざした金融サービスを提供する同庫では、スマートフォンアプリの利用拡大に伴い、顧客対応チャネルの多様化が急速に進んでいた。これを受けて問い合わせ増加を見据えた体制強化を図っていたが、以前から利用していたチャットボットでは、顧客が必要な回答にたどり着きにくいという課題があった。さらに、FAQの作成や更新に関わる運用負荷も大きく、現場の重い負担となっていた。
この課題を解決するため、ビーウィズは約3年にわたり同庫のコンタクトセンターを運営してきた知見を活かし、現場発のDX支援に乗り出した。AIチャットボットの導入からFAQ設計、継続的な運用改善までをBPOと一体で提供したのである。AIと人間が対応する領域を整理し、運用品質の向上と体制強化を両立させた。
その効果は数字として明確に表れている。問い合わせ件数が通常月の約4倍に急増した局面において、「Tetory」が一次対応として定型的な問い合わせを受け止めたことで、チャットの対応件数は通常期の2倍超に拡大し、電話への集中を大幅に緩和した。AIが初期対応を担うことで自己解決が進み、有人オペレーターの稼働時間を約35%削減することに成功している。
多くの企業が業務効率化を目指してAIチャットボットを導入しているが、期待した成果を得られず形骸化してしまうケースは少なくない。その原因の多くは、「優れたツールを入れれば自動的に業務が回る」という誤解にある。実際には、顧客の声に合わせてFAQを継続的にチューニングし、AIが処理しきれない複雑な案件を人間へスムーズに引き継ぐ細やかな「運用設計」が不可欠だ。
今回の事例から見えてくるのは、AIというテクノロジーと、人間のオペレーションを切り離さずに「一体で運用する」ことの優位性である。ビーウィズは現場で培ってきた対応の知見を活かし、FAQ設計や運用改善に反映させたという。現場のリアルな課題や顧客の微妙なニュアンスを理解しているからこそ、単なる一問一答にとどまらない、真に役立つ自己解決の導線を構築できたのである。
このアプローチは、人手不足に悩む幅広い業界の顧客接点に示唆を与えるだろう。AIにすべての対応を丸投げするのではなく、定型的な初期案内といった構造化しやすい領域をAIに任せ、人間はより複雑な相談やクレーム対応に集中する。人間とAIがそれぞれの得意分野で役割を分担することで、オペレーターの疲労を軽減しながら、顧客満足度を落とすことなく大量のトラフィックを処理できる。
テクノロジーの進化で顧客接点が多様化しても、「顧客の課題を解決する」という本質的な目的は変わらない。優れたAIツールを現場の生きた知見で磨き上げ、適切にマネジメントする。この「運用力」こそが、これからのビジネスで他社との明確な差別化を生み、持続可能な顧客対応基盤を築くための強力な武器となっていくはずだ。