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2026.06.30

暴言をAIで文字化。電話カスハラを防ぐ盾

電話越しに浴びせられる怒鳴り声や理不尽な要求。カスタマーハラスメントが深刻な社会問題となる中、最前線に立つオペレーターたちは大きな精神的負担を抱えている。
これまで企業が行ってきた対策は、録音による警告やNGワードの検知など「相手を牽制する」手法が主流だった。しかし、それでは防ぎきれない言葉の暴力から従業員を守るため、テクノロジーを用いた新しいアプローチが登場した。
「暴言をなくす」のではなく「直接耳に入れさせない」。AIをフィルターとして活用する新たな防衛策が、過酷な顧客対応の現場を支援する。(文=AI Base編集部)

耳ではなく画面で対応。リアルタイム変換

2026年6月10日、コンピュータソフトウエアの研究開発などを手掛ける株式会社ナレッジフローは、電話応対業務におけるカスタマーハラスメント(カスハラ)対策を目的としたシステム「テキストフォン」の実証提供を開始したと発表した。


(引用元:PR TIMES

顔が見えない電話応対は、対面以上にカスハラが発生しやすい環境であり、オペレーターの離職やメンタル不調の大きな要因になっているという指摘がある。現場では「録音しています」というアナウンスだけでは十分な抑止力にならず、スタッフ自身が強い言葉を直接受け止め続けなければならないケースが多発していた。同社でも取引先などから精神的負担についての相談が増加しており、「聞こえること自体がダメージになるなら、聞かなくて済む仕組みを作るべきだ」という逆転の発想から本システムの開発に至った。

(引用元:PR TIMES

テキストフォンは、電話をかけてきた顧客の音声をAIがリアルタイムで文字変換する仕組みだ。オペレーターは音声を直接聞くことなく、画面上に表示されたテキストを見て応対を行う。一方、オペレーター側からの返答は通常通り音声として相手に届くため、顧客から見れば一般的な電話応対と変わらない自然なコミュニケーションが成立する。

実際のカスハラ被害においては、言葉の内容そのものよりも、大声や威圧的なトーンといった「音」が強烈なストレスを与える原因となっている。このシステムは、通常時は音声で通話を行い、カスハラリスクが高い相手の時のみテキストに切り替えて利用することも可能であり、音声を物理的に遮断することで心理的ダメージの軽減が期待される。

感情を無機質に変換。従業員を守る防壁

この新しいシステムの登場は、ビジネス現場におけるAIの役割が「業務の効率化」から「従業員の心理的保護」にまで大きく広がっている現実を明確に表している。

これまで多くの企業は、AI音声認識を議事録の作成や応対履歴の自動入力といった作業時間削減のために導入してきた。しかし、人間の声をテキストという無機質なデータに変換するAIの特性は、感情的なノイズを削ぎ落とす強力なフィルターとしても機能する。例えば「責任を取れ」という言葉を、激高した声で浴びせられるのと、フラットな文字情報として画面に表示されるのとでは、受け手が感じる精神的な負担は雲泥の差だ。テキスト化されることで、担当者は冷静に内容を把握し、客観的に対応しやすくなるだろう。

コールセンターや営業サポートといった電話応対部門は、慢性的な人手不足に悩まされている。「電話業務だから仕方ない」と精神的な負荷を現場に押し付け続ければ、組織の基盤は確実に弱体化していく。企業が従業員の心を守るための具体的な仕組みを用意することは、離職を防ぎ、安定したサービス品質を維持するための有効な投資といえる。

クレームを根絶しようと相手をコントロールするのではなく、人間が耐えきれない過剰なストレスをAIの力で物理的に遮断する。現場の痛みに寄り添い、AIを頼もしい「盾」として活用するこのアプローチは、激化するカスハラ問題に直面する多くの企業にとって、組織を守り抜くための有力な選択肢のひとつとなるはずだ。