テレビから流れてくる美しい映像と温かみのある声。一見すると人間が演じているようにしか見えないそのCMが、実は人物も商品も音楽も、すべて生成AIで作られているとしたらどうだろうか。
少し前まで「AIで作ったこと」自体がニュースになっていたクリエイティブ業界。しかし今や、AIの活用は話題作りの枠を超え、ブランドの信頼を背負う商業レベルの品質へと到達している。AIとクリエイターの協働は、私たちのビジネスにどのような表現をもたらすのだろうか。(文=AI Base編集部)
2026年5月1日、東京都から委託を受けて株式会社ツクリエが運営する東京コンテンツインキュベーションセンター(TCIC)に入居する、映像制作を手掛けるガウマピクス株式会社は、代表取締役で映画監督の山口 ヒロキ 氏が、株式会社創味食品のブランドCM制作を担当したと発表した。4月1日より放送中のこの映像は、人物、商品、音楽、音声のすべてを生成AIで制作したフルAIのテレビCM作品である。
(引用元:PR TIMES)
創味食品は長年にわたり「プロが納得する味づくり」にこだわる老舗メーカーだ。和洋中の幅広い調味料を展開し、多様な顧客層から支持を集めている。そうしたブランド特性を表現するため、CMに登場して商品を手に取るモデルは、性別や年齢、国籍も多様な6人で構成されている。
この作品で最もこだわったのは「AIで作ったこと」をアピールするのではなく、ブランドの広告として成立させることだった。山口氏は「生成したものをそのまま使うのではなく、生成と調整を重ねながらポストプロダクション(※)で丁寧に仕上げ、最終的には人の手で細部を整えている」と語る。
(引用元:PR TIMES)
特に人物表現については、商品のイメージに合うリアルな存在感や空気感を持たせるため、時間をかけて相当数の生成を繰り返した。また、食品のCMで命とも言える「シズル感」についても、食の魅力である質感や温度感を表現するため、リアリティを求めて実直な試行錯誤を重ねた。
「新しさや話題性に目が向きがちだが、ブランドが持つ安心感や信頼感を損なわず、自然に伝わる映像にすることを最優先に心掛けた」という山口氏の言葉から、実写もAIも手掛けるプロフェッショナルならではの、品質への強いこだわりがうかがえる。
(※)撮影・素材制作後に行う映像編集、音声調整、色補正などの仕上げ工程
これまでは、生成AIを使って映像を作ること自体が珍しく、プロモーションにおいて「AIが作った」というプロセスそのものが目的化されるケースが多かった。
しかし、この全編AIによるテレビCMの放送は、クリエイティブ業界におけるAIの活用フェーズが明確に変わったことを示している。企業のブランドイメージを背負い、消費者に安心感や信頼感を届ける商業広告において、AIはもはや「驚きを提供する魔法」ではなく、「カメラと同じ表現のための実用的な道具」として機能し始めている。
(引用元:PR TIMES)
AIはテキストで指示を出せば、わずかな時間で高品質な画像を生成してくれる。しかし、それがブランドの意図や商品の魅力を正確に伝えているかどうかを判断し、細かな空気感や温度感を調整するのは人間の役割だ。出力されたものをそのまま使うのではなく、生成と微調整を繰り返し、最後は人間の感性と技術で丁寧に磨き上げる。テクノロジーが進化しても、最終的な品質を担保し世の中に出す責任を負うのは人間であるという事実は変わらない。
また、AIを活用することで、これまで多額の予算や大掛かりな撮影セットが必要だった表現が、限られたリソースでも実現できるようになる。国籍の異なるモデルの起用や多様なシチュエーションの描写など、クリエイターの頭の中にあるアイデアを制約にとらわれずに形にすることが可能になる。
AIを話題作りのために消費するのではなく、ブランドの価値を高めるための頼もしいアシスタントとして使いこなす。技術と人間の感性が高い次元で連携するこの新しい制作手法は、映像業界にとどまらず、あらゆるビジネスの現場においてより効果的な表現を生み出すための確かな足がかりとなるはずだ。