画面をスクロールし、幾つものサイトを往来して価格や性能を比較する。長らく消費者の日常を支配してきたこの「買い物」の風景が今、大きな変容を遂げようとしている。生活者はもはや、自ら検索を繰り返す必要はない。なぜなら、AIエージェントに自らの好みや要望を伝え、最適な商品の提案から決済までをすべて委ねる「エージェンティックコマース」が、現実の購買行動として浸透し始めたからだ。AIエージェントが生活者の「代理人」として振る舞い始める中で、企業には「人間に好かれる」だけでなく、「AIに正しく理解され、選ばれる」という全く新しい生存戦略が求められている。(文=AI Base編集部)

(引用元:PR TIMES)
2026年7月7日に発表されたこの取り組みは、株式会社博報堂がグループ企業11社および業務提携企業と横断的な戦略組織を組成し、エージェンティックコマース領域の統合ソリューション「Agentic Commerce ONE™」を開始したものである。その第一弾として、企業の対応状況を客観的に評価する「エージェンティックコマース診断」の提供が開始された。
(引用元:PR TIMES)
本ソリューションの核心は単なるAIツールの導入支援にとどまらず、AIエージェントが自律的に購買を完結するための「標準プロトコル」への対応を主軸に置いている点にある。具体的には、AIエージェントと外部データを接続する「MCP(Model Context Protocol)」をはじめ、決済やECプラットフォームを繋ぐ「ACP」や「UCP」といった次世代の通信規格への適合を支援する。これらのプロトコルに準拠することは、自社の商品情報にAIがアクセスできる状態にし、選別されるための門戸を開くことに相当する。
2026年1月に米国で開催された「NRF’26 Retail’s Big Show」(※)でも、エージェンティックコマースは大きく取り上げられた。世界的なリテールの潮流が「AIによる代行」へと傾く中で、日本企業がいかにしてこの新しい商流に適応できるか、その優先順位を明確にするための実務的な環境が整った。
(※)2026年1月に米国ニューヨークで開催された世界最大級のリテールカンファレンス
博報堂による今回のソリューション展開は、マーケティングの本質が「人間の情緒に訴えかける認知」から「AIのアルゴリズムに適合する認識」へと移行したことを物語っている。
これまでのマーケティング戦略は、広告やデザインを通じて生活者の記憶に残る「ブランド認知」の獲得を頂点としてきた。しかし、AIエージェントが購買の主体となる環境では、AIが情報を正確に抽出・解釈できる「認識」のされ方が企業の成否を分ける。構造化されたデータ設計や、AIエージェントとのシームレスな接続性の確保は、企業の競争優位性を決定づける新たなインフラとなるだろう。生活者の代理人としてのAIに、自社の商品が「最も適切である」と論理的に理解させるプロセスが、今後の商流のスタンダードとなるはずだ。
また、この変革はフロントのECサイト改修にとどまらず、企業のバリューチェーン全体にも波及するだろう。AIエージェントに一連の取引をエラーなく完結させるためには、在庫状況や価格、物流ステータスといった動的なデータをリアルタイムで同期させ、プログラムが即座に実行に移せる環境を整える必要があるからだ。
ECの価値は、「サイトの使いやすさ」から「AIが即座に取得・処理できるデータ設計」へと移っている。博報堂が提示した統合ソリューションは、企業がAI共生時代の新しい商流に乗り、生活者とAIが新しい信頼関係を構築するための不可欠な一歩となるだろう。