1. AI Base TOP
  2. AI活用の基盤をつくる
  3. 悩みをAIが傾聴。行政窓口の新たな形

2026.08.05

悩みをAIが傾聴。行政窓口の新たな形

DVや性暴力、生活困窮といった深刻な悩みは、行政の窓口が開いている時間に打ち明けられるとは限らない。「自分にも非があるのではないか」と孤独を抱える人々にとって、人間に直接相談する心理的ハードルは極めて高い。この行政のセーフティネットの限界を、24時間365日稼働する生成AIが優しく受け止め、人間の専門家へと繋ぐ画期的な仕組みが奈良市で動き出した。AIと人が融合した新たな相談窓口の形に迫る。(文=AIBase編集部)

AIが傾聴し、人に繋ぐ。奈良市の相談体制

2026年7月、生成AIを活用した相談支援サービスを展開するつながりAI株式会社は、奈良市から「女性問題相談AI活用支援サービス業務委託」を受託したと発表した。同年9月より、奈良市内に在住・在学・在勤する人々を対象に、LINEを通じた24時間365日対応の傾聴型生成AIサービスを構築・運用する。事業の名称は「女性問題相談」だが、相談者の性別は問われない。

(引用元:PR TIMES

このサービスは、DVや性暴力、生活困窮などの悩みをAIが受け止め、気持ちに寄り添いながら状況の整理を支援するものだ。自治体の女性支援部門が所管する事業において、このような自由対話型AIによる傾聴、緊急性の高い相談の把握、そして対話履歴を引き継いだ自治体相談員による有人対応を一体的に導入する取り組みは全国初(※)となる。

使い慣れたLINEを通じて時間を問わず相談できるため、心理的なハードルが大幅に下がる。AIは相談内容を分析し、自殺念慮や虐待などの緊急性が高い事案を検知した場合は、担当者へアラートを通知する。また、相談者が有人対応を希望した場合、AIとの対話履歴を保持したまま奈良市の相談員へとスムーズに引き継がれる。これにより、相談者がつらい体験を何度も繰り返し説明する負担を抑えることができる。

もちろん、AIにすべてを任せきりにするわけではない。自傷や犯罪行為を促す内容には安易に同調せず、適切な注意喚起や専門機関への案内を行う安全設計(ガードレール)が設けられている。機微な相談情報の国内保管や暗号化など、セキュリティ面も万全の体制が敷かれている。

(※)2026年6月30日時点、つながりAI株式会社調べ

人間を置き換えるのではなく、人に繋ぐためのAI

今回の奈良市での取り組みが示唆するのは、AIが社会的な孤立を防ぐための「温かな社会インフラ」として機能し始めたという事実だ。

これまで、行政の相談窓口は専門の職員が電話や面談で丁寧に対応してきた。しかし、人員や予算の制約により深夜や休日の対応は難しく、何より「こんなことで相談していいのか」という相談者側の躊躇が、早期の支援を阻む壁となっていた。人間相手だからこそ生じる恥ずかしさや恐怖心が、結果としてSOSの声を埋もれさせてしまうのだ。

AIはこの「人間だからこそ生じる摩擦」を緩和する。機械であるAIに対しては、深夜であっても気を遣わずに感情を吐き出せる。AIは批判も評価もせず、ただ言葉を受け止め、混乱した状況を冷静に整理してくれる。この最初のステップがあるからこそ、相談者は少しずつ心を開き、やがて人間の専門家による具体的な支援へとつながっていくことができる。

つながりAIの代表取締役である駒崎弘樹氏は「AIは、人の支援を置き換えるためのものではない。相談のハードルを下げ、必要なときに人へつなぐためのものだ」と語る。定型的な事務作業の効率化だけでなく、人間の尊厳や精神的な安全網を守るためにAIを活用するこのアプローチは、公共サービスのDXにおける重要な道標となるだろう。

テクノロジーが冷酷に人を切り捨てるのではなく、傷ついた人々に寄り添い、人間社会の温もりへと優しく導く。AIと人間がそれぞれの強みを補完し合うこの新たなセーフティネットは、リソース不足に悩む全国の自治体にとって、真に支援が必要な人々を孤立から救い出すための現実的な解となるはずだ。