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2026.07.17

情シスだけでなく、現場が育てるAI。全社実装モデルの実例とは

情報システム部門が用意したツールを、現場が受動的に利用する──。長らく続いてきた「供給する側」と「使う側」という構図が、今、大きく変わり始めている。業務のボトルネックを最も熟知している現場担当者が、自らAIエージェントという「実働部隊」を構築し、業務プロセスに合わせて継続的に改善していく時代が到来した。DXの主導権は情報システム部門だけでなく、現場へと広がりつつある。この変化こそが、停滞していた企業のDXを真の業務変革へと進化させる鍵になるだろう。

その象徴的な事例の一つが、2026年6月に公開された、日本のシステムインテグレーター、BIPROGY株式会社の取り組みだ。

同社は、Microsoft 365 Copilotなどを活用したAIエージェントの全社展開を進め、自社を「Customer Zero」と位置づけて先行導入を実施。得られた知見を基に、業務部門が主体となってAI活用を定着させる仕組みを構築している。プロモーション業務では原稿作成時間を約50%削減するなど、具体的な成果も報告されており、「自律的に広がるAI活用文化」の構築手法として注目を集めている。(文=AI Base編集部)

原稿作成時間を半減。実務に直結するAIエージェントの衝撃


(引用元:BIPROGY株式会社

BIPROGYが取り組んできたAI活用の核心は、IT部門だけでなく、業務部門が主体となってAIエージェントを構築・運用できる環境を整えた点にある。2025年12月にはAIエージェントの実行環境をグループ全体に解放。Microsoft Copilot Studioを活用することで、プログラミングの専門知識がない社員であっても、自らの業務課題に即したAIエージェントを迅速に作り出せる体制を構築した。

具体的な成果は、すでに複数の領域で現れている。例えば、プロモーション業務では「プロモーション原稿チェックアシスタント」を導入。原稿の校正や表記の誤りチェック、さらにはFAQの作成までをAIが担うことで、従来は約1カ月を要していた対応時間を約50%削減し、1〜2週間程度へと短縮することに成功した。また、社内決裁に必要な資料をチェックする「稟議作成支援エージェント」や、PCの入れ替え手順を案内する「PCセットアップ支援エージェント」なども稼働しており、手戻りの削減や自己解決の促進に寄与している。

こうした取り組みの背景には、自らを最初の顧客に見立てて先行実践する「Customer Zero」の思想がある。自社での試行錯誤を通じて得られた泥臭い失敗や成功のナレッジを蓄積し、それを全社的な標準へと昇華させるプロセス。これにより、単なるツールの導入にとどまらない、日常業務に深く根ざした形での効率化と品質向上が実現されているといえる。

「中央集権」から「自律分散」へ。AI CoEが支えるガバナンス

今回のBIPROGYの事例が物語るのは、大企業におけるAI活用の主戦場が、「システムの構築」から「組織能力の底上げ」に移行しつつあるという事実だ。

AIを「中央で作り、現場に配る完成品」ではなく「現場が自ら育てる道具」と再定義した意義は大きい。現場主導の俊敏な活用を許容しながら、一方で今期より正式に組成された「AI CoE(Center of Excellence)」が全社横断での標準化やガバナンスを担う。この自律分散的な活用と中央集権的な統治のバランスこそが、AI活用の属人化を防ぎ、一過性のブームに終わらせないための効果的なモデルとなるはずだ。

また、アンバサダー制度やライトニングトーク大会といった、社員同士が事例を共有し合う文化醸成の取り組みも注目に値する。これらは「やらされ感」を排し、社員が自発的にAIという新たなリソースを使いこなすための動機付けとして機能している。AIを組織の仕組みとして組み込むことは、単なる人手不足への対策を超え、人間をルーチンワークから解放し、本来向き合うべき創造的な業務へと回帰させる契機となるだろう。

日本のホワイトカラーの生産性向上は個人のスキルに頼る段階を終え、組織全体のOSをアップデートする段階へ進んだといえる。BIPROGYが提示した、現場の知恵をAIに転写し、それを組織全体で統治する仕組みは、これからの企業経営におけるオペレーションの新たなスタンダードとなることが期待される。