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2026.06.03

面談の声を資産へ。介護施設紹介のAI変革

「この面談の記録を、何かに活かせないか」。日々蓄積される顧客の切実な声や現場の判断は、多くの企業で担当者の記憶やメモの中に眠り続けている。特に人と人が向き合うサービス業では、経験という暗黙知を組織で共有することが難しく、属人化の限界を迎えやすい。
この声なきデータをAIで解析し、企業の永続的な経営資産へと生まれ変わらせる取り組みが始まった。感情に寄り添う現場に最新技術が加わる時、ビジネスのあり方はどう変わるのだろうか。(文=AI Base編集部)

眠っていた声をデータ化。現場発の変革

2026年4月30日、AI経営顧問会社のZept合同会社は、神戸を中心に老人ホーム紹介サービスを展開する株式会社ネオスタイルにおけるAI活用の実践モデルを公開した。

(引用元:PR TIMES

介護施設紹介の現場では、1回の面談が80〜90分に及ぶことも珍しくない。家族の不安や施設選びの葛藤といった感情が詰まったヒアリング内容は、これまで担当者の記憶の中に留まり、上手く活用されていなかった。ネオスタイルはこのデータをAIで解析し、構造化して蓄積する仕組みを構築した。これにより、新人相談員でもベテランと同水準の対応が可能になるだけでなく、ベテラン独自の施設選定ノウハウをAI化することで、人が入れ替わっても経験が組織に残る体制が整えられた。

さらに、業務の司令塔として表計算ソフトに関数を組み込み、問い合わせの優先度判定や次回アクションの提案を自動化することで、相談員が判断に迷う時間を大幅に削減している。

こうした変革は社内の効率化に留まらない。相談員が同行した施設見学のデータを蓄積・分析し、施設が選ばれる条件や見送られる理由のパターンを導き出している。この情報は施設側にとってもサービス改善の大きなヒントとなる。

ネオスタイル代表の藤本将誉氏は、「ご入居者様のために施設を探すうちに、そのデータが施設の経営改善にも貢献できると気づいた」と語る。また、「面談データが眠っていた時代に戻るつもりはない。AIは現場のやりたかったことを全部実現してくれるパートナーだ」とその手応えを口にしている。

技術ではなく「人」を育てるAI導入

こうした現場主導の変革から見えてくるのは、AIを単なる効率化のツールとしてではなく、組織の知見を拡張する「基盤」として活用することの重要性である。

2040年に向けて高齢者人口がピークを迎える一方で、働き手は減少の一途をたどる。この相反する課題に対し、単に採用を増やして力技で解決しようとすれば、コストの増大とノウハウの属人化によっていつか限界が訪れる。この課題をクリアするためには、現場の経験をAIによって言語化し、組織全体の共有資産として永続させることが求められる。

そして、この変革を成功に導く最大の鍵は経営層の姿勢にあると言える。今回の事例では、社長自身が最新技術を試し、率先して現場へ展開することで組織全体のAI活用を後押しした。システムを導入しただけで満足するのではなく、経営者が自ら使いこなす文化があるからこそ、現場にも新しい仕組みが定着していく。

(引用元:PR TIMES

外部の専門家として伴走したZeptが指摘するように、AI導入はシステムの入れ替えで終わらせるべきではない。感情や信頼が重視される現場だからこそ、AIを「人間の代替」ではなく「記憶と経験を守るパートナー」として育てていくプロセスが不可欠となる。現場の担当者が自分専用のAIを育てて業務に組み込むことで、初めて真の業務変革が実現するだろう。

最新技術を現場の文脈に落とし込み、経営者自身がその先頭に立つこと。そして、得られたデータを自社だけでなく関係する施設や顧客への価値提供へと繋げる視点を持つこと。AIが人間に伴走して現場の課題を解き明かすこのアプローチは、深刻な人手不足に直面する多くの企業にとって、次なる成長を描くための確かな足がかりとなるはずだ。