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2026.04.23

建築の脱炭素を加速。AIが解く算定の難問

建物の建設には多様な建材が用いられる。その過程で排出されるCO2の量は、全産業の約3分の1を占めるといわれる。しかし、その膨大な環境負荷を「正確に測る」という行為自体が、これまでは大きな負担となっていた。無数の建材と複雑なサプライチェーン。各部材と排出原単位を突き合わせる専門家の手作業が、脱炭素経営への移行を阻む見要因となってきた。
2026年2月、野村不動産ホールディングス株式会社と株式会社ゴーレムが開始した取り組みは、このアナログな停滞をAIによって突破しようとしている。AIが膨大なデータを整理し、環境負荷を可視化する。この取り組みは、建築業における意思決定を、データに基づいた「責任ある未来」へと繋ぎ直すための不可欠なプロセスとなるはずだ。(文=AI Base編集部)

専門知をAIへ。複雑な建材データからCO2を自動抽出する技術


(引用元:PR TIMES

野村不動産ホールディングスと、不動産・建設業特化のデータプラットフォームを運営するゴーレムが導入したのは、AIを活用したCO2排出量自動算定システム「Gorlem CO2(ゴーレムシーオーツー)」だ。本プロジェクトの核心は、これまで専門技術者が膨大な時間を投じて手作業で行っていた「部材と排出原単位の紐付け」をAIで自動化する点にある。

建物のライフサイクル全体の排出量を算出するには、材料調達から施工、廃棄に至る各フェーズのデータを精査しなければならない。特に建設業者ごとに異なる書式で提出される見積書や仕様書を読み解く作業は、属人的なノウハウに依存していた。本システムは、AIがこれらの多様なデータ形式を解析し、適切な原単位と自動で照合。業務フローを大きく変えることなく、算定作業の大幅な効率化を実現した。


(引用元:PR TIMES

この基盤整備により、野村不動産グループが掲げる「Scope 3排出量50%削減(2019年度比)」という高い目標の進捗を、より解像度の高いリアルタイムな数値で管理することが可能となった。非構造データの山から環境価値を正確に掬い上げる技術は、建築分野におけるサステナビリティのあり方を根底から書き換えようとしている。

算定の壁を越えて「削減」へ。データ主権が拓く建築DXの未来

「Gorlem CO2」の導入が示唆するのは、建築業界における脱炭素のフェーズが、単なる「記録」から「設計と予測」へと移行したという事実である。

AIにより算定が自動化・高速化されることで、開発者は設計の初期段階において、異なる材料や工法がもたらす環境負荷を即座にシミュレーションできるようになる。つまり、AIは過去の排出量を算出する道具ではなく、より低炭素な建物を構想するための「知的な伴走者」へと進化したのだ。

また、この技術は建設業界が直面する深刻な人手不足への回答でもある。専門知識を必要とする業務をシステムに代替させることは、環境への責任を属人的な能力に委ねるのではなく、組織のノウハウとして定着させる行為に他ならない。正確な測定に基づく予測可能性こそが、実態を伴わない環境配慮を装うグリーンウォッシュを防ぎ、不動産価値を客観的に証明するための強固な防波堤となるだろう。

建築分野の脱炭素化は、もはや単なるスローガンではなく、AIを用いた「データの掌握」によってその実効性を発揮すべき段階に突入した。野村不動産とゴーレムが提示したモデルは、複雑なデータを環境資産へと変換するための新たな建築DXのスタンダードとなる可能性が高い。知能が物理世界の負荷を正確に捉え始めた今、日本のものづくりは、より持続可能なステージへと着実に歩みを進めている。