「商品のPRをどう行い、どのような効果が出るのか分からない」その課題に多くのマーケターが頭を悩ませてきた。AIを用いて効率的・効果的なマーケティング施策を打ち出そうにも、AIをどう活用すべきか理解できないまま、悩み続ける企業も多い。
そんな中JapanStep編集部は、オープンイノベーションを推し進めるNECの新ソリューション情報をキャッチ。マーケティング業務をAIで変革するツール「BestMove®」に焦点を当てた。生成AIとビッグデータを融合し、分析から施策立案までを支援するこの仕組みは、勘に頼る手法からデータ駆動型の意思決定へとマーケターを導く。果たして、この新たなサービスはマーケターの業務をいかに変えていくのか。(文=JapanStep編集部)
「仕掛けよう、未来。」――NECの新規事業開発「NEC Open Innovation」のキーメッセージだ。オープンイノベーションの加速を戦略の中核と位置付け、スタートアップやパートナー企業との多彩な共創を通じた新規事業の開発に力を入れている。その成果の一つが「BestMove®(ベストムーブ)」だ。
BestMoveは、メーカーのマーケターに「最善の一手を提供する」をコンセプトに、常にマーケターの想いに寄り添い、使いやすさを磨き続けてきた。その積み重ねが共感を生み、導入を検討する顧客も着実に増えているという。
「BestMove®(ベストムーブ)」は、生成AIと消費者購買データを活用したマーケティング施策立案ソリューション。2025年6月16日よりクラウドサービスとして提供を開始。企業のマーケティング活動における意思決定プロセスを抜本的に変えることを目指す。
多くのマーケターは、市場調査や認知度調査など多様なデータを扱いながらも、それらの関連性の弱さから「どの施策が最適か」を判断しづらく、前年踏襲や経験と勘に依存した意思決定に陥りがちである。BestMove®は、この課題に対し、10以上のAI技術を組み合わせた解析基盤を提供し、顧客分析から施策立案、効果予測までを一気通貫で支援する。
BestMove®のコンセプト
購買データとNEC独自の消費者属性拡張技術を組み合わせることで、全業種・業態を横断した高精度の顧客像を描き出し、潜在ニーズや興味関心を浮き彫りにする。さらに、「○○が好きな人たち」といった独自の顧客クラスターを自然言語で作成でき、ペルソナを踏まえた分析も容易だ。施策立案では、生成AIとNEC独自の知見発見・記事評価AIが、方向性に即した質の高い施策案を提示し、その根拠と顧客反応率推定を併せて示す。
市場分析から施策の決定まで一連のマーケティングプロセスをBestMove®が支える
また、市場規模や売上、認知度、集客数といった複数指標を基に相対評価できるディシジョンボードにより、施策の効果を視覚的に判断できる。提供価格は月額30万円(税別)からで、今後5年間で150社への導入と30億円の売上を目標としている。
BestMove®が示す変革の核は、三つの特長に要約できる。第一に、購買データに根差した高度なターゲティングである。クレジットカードやID-POSなど多様な消費者購買データに、NEC独自の消費者属性拡張技術を組み合わせることで、業種・業態を横断した趣味嗜好の把握を高い解像度で可能にする。加えて、先述したように「〇〇が好きな人たち」といった自然言語による顧客クラスター定義に対応。ペルソナを踏まえた柔軟な分析ができる点は、従来の画一的セグメント設計からの前進といえる。
顧客クラスターマップの出力画面
第二に、施策立案と意思決定を支える「知のエンジン」である。NECの知見発見AIや記事評価AIに生成AIを複合し、方向性に即した複数の施策案を提案、その根拠を併記する。さらに顧客反応率推定AIにより、各案の反応見込みを事前に推定し、市場規模・売上・認知・集客など複数軸でのフェルミ推定を可視化するディシジョンボードを提供する。アンケートやテストマーケティングを全面代替する趣旨ではないが、実行前の「当たり」を絞り込み、意思決定の確度を高める効果が期待される。
ディシジョンボードに表示された施策立案結果
第三に、プロセス共有を前提とした知識基盤化である。部門・ブランドを横断して施策立案データベースを構築し、過去の思考過程や設計意図を資産化する設計は、人材育成や生産性向上への寄与を狙うものだ。属人的な「勘と経験」から、検証可能な「組織知」への移行を促し、企画負荷の軽減やマンネリからの脱却、未知の市場理解の加速といった副次効果も見込まれる。
部門内のメンバーが実施した施策案の共有画面
AIとデータ活用によりマーケターの仕事も変わりそうだ。高解像度の顧客理解によって仮説形成が速まり、生成AIが複案を提示し、反応率推定が実行前のふるいをかけることが可能になるはずだ。意思決定は「説明可能な根拠」を伴い、実行後の知見は次の意思決定へと循環する。効率化にとどまらず、探索の幅を広げ、打ち手の質が底上げされることでマーケティング活動も大きな進化を遂げるだろう。