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2025.05.30

転移学習とは?少ないデータでも効率的に学習できるAI技術の仕組みを解説

スマートフォンの顔認証、文章の自動翻訳、医療画像の診断支援などのAI機能の多くは、「転移学習」という技術の恩恵を受けています。本記事では、大量のデータや計算リソースがなくても高性能なAIを構築できるこの技術について分かりやすく解説します。

「学んだことを活かす」人間のような学習法

転移学習とは、あるタスクで学んだ知識を別のタスクに転用する学習方法です。これは人間の学習方法に非常に似ています。

例えばピアノを弾ける人が、新しく習い始めたギターでも音楽の基礎知識(音符の読み方やリズム感など)を活かすことで上達が早くなるように、AIも「既に学んだこと」を新しい問題に活用できるのです。

従来の機械学習では、タスクごとに一からデータを集めて学習させる必要がありました。これは、料理のレシピを一つ覚えるたびに、包丁の持ち方からすべて学び直すようなものです。転移学習はこの非効率を解消し、「既に獲得した知識」を新しい課題に応用することを可能にしました。

なぜ転移学習が重要なのか?

転移学習が注目される理由には、主に以下の3つがあります。

データ不足の解消

特定の分野(例:医療画像)では、学習用の大量のデータ収集が困難なことがあります。しかし転移学習により、一般的な画像認識で学んだ「目や耳の形を認識する」という基礎能力を活かし、少ないデータでも特定の病変を検出できるようになります。

計算コストの削減

最新のAIモデル学習には、多くの計算リソースと時間が必要です。しかし転移学習では、既存のモデルを「微調整」するだけで済むため、大幅なコスト削減が可能になります。

汎用性の向上

さまざまな知識を組み合わせることで、より柔軟に新しい問題に対応できるようになります。これは人間が日常的に行っている、異なる経験からの知識を組み合わせて新しい問題を解決する方法と同じ原理です。

転移学習の実現方法 

(引用元:CO-WRITE

転移学習の代表的な手法として、「事前学習」と「ファインチューニング」があります。

●事前学習:まず大量の一般的なデータを使って、基本的な特徴抽出能力を持つモデルを作ります。

ファインチューニング:次に、そのモデルを特定のタスク用に少量のデータで調整します。

例えば、猫と犬を識別するAIを作る場合を考えてみましょう。

事前学習の段階では、さまざまな物体の画像を大量に含む一般的なデータセットでモデルを訓練します。この段階でモデルは「耳の形」「目の位置」などの基本的な特徴を認識できるようになります。

次にファインチューニングの段階では、特定の犬種と猫種の画像を少量用意し、そのデータでモデルを微調整します。こうすることで、少ないデータと計算リソースでも高精度な犬猫識別AIが完成するのです。

転移学習の身近な応用例

転移学習は、すでにさまざまな分野で実用化されています。

●スマートフォンのカメラ:人物を認識し、ポートレートモードで背景をぼかす機能

言語処理:GPTのような大規模言語モデルを特定の専門分野用にカスタマイズ

医療画像診断:一般的な画像認識技術を応用した、レントゲンやMRIでの病変検出

工場の異常検知:正常な動作データから学んだ知識を活用した故障予測

特に注目すべきは、大規模言語モデルを基にした専門AIの開発です。医療や法律など専門知識が必要な分野でも、少量の専門データで調整するだけで、専門家レベルの応答が可能になっています。

まとめ:知識を再利用する賢い学習法

転移学習の最大の特徴は、一度獲得した知識を異なる課題に応用できる点にあります。ゼロから学習し直す代わりに、過去に得た知識を別の課題に応用することで、限られたデータでも効率的にAIを構築できるようになりました。

この技術は今後も発展を続け、データや計算資源の制約を克服しながら、多様な分野で活用されるでしょう。学習したことを別の場面で活かせるこの能力は、専門性の高い領域から私たちの日常生活に至るまで、幅広い範囲でAIの普及を加速させていくと考えられます。