「ChatGPTを使って業務が早くなった」。そんな声を社内で聞くことが増えたかもしれない。しかし、それはその社員のITリテラシーに支えられている部分が大きく、他の社員の業務効率までが連動して引き上がるわけではない。
単にAIツールを導入しただけでは、便利な道具を使いこなせる一部の人間と、そうでない人間の間に社内格差が生まれるだけだ。「個人技」にとどまりがちなAIの活用法を、会社全体の「仕組み」として定着させ、全員の生産性を相対的に引き上げるための実践的なアプローチが始まっている。(文=AI Base編集部)
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2026年9月3日、高付加価値な観光コンテンツの開発や販売を手掛けるエクスペリサス株式会社は、社員および業務委託メンバー計59名を対象に、AIエージェント「Claude Code」を全社導入したと発表した。
(引用元:PR TIMES)
同社は全国の地域資源を観光コンテンツへと転換し、海外富裕層向けの販路に接続するモデルを展開している。コンテンツの開発から手配までを一気通貫で担うため、リサーチや資料作成、データ加工といった小規模な業務が全社に広く存在しており、これらは個別にシステム化されにくく手作業として残りやすい領域だった。
この課題に対し、同社は「AIを使える人だけが使う」という状態を避けるため、経営陣を含む全メンバーを対象に研修を実施。最大の特徴は、社員が自分の業務で効果的に活用できたAIの手順を「スキル」として蓄積し、全社の共有基盤に登録・検索できる仕組みを構築したことだ。人が読みこんで再現をする従来のマニュアルとは異なり、他の社員のAIエージェントがその手順を直接読み込んで同じように実行できる。
2026年8月末時点で、45名が743件のスキルと127体の業務別AIエージェントを登録したという。研修後のアンケートでは非エンジニア職の53%が日常的に活用しており、そのうち69%が「同じ成果物にかかる時間が半分以下になった」と回答している。さらに、デザインやブランド規定など会社共通のルールをAIが自動で適用できる環境も整備し、手戻りの削減に成功している。
今回の事例が明確にしているのは、AIツールの導入を成功させるためには「道具を配って終わり」ではなく、「組織の知識を循環させるインフラ」として機能させる設計が不可欠であるという点だ。
新しいテクノロジーが社内に導入される際、活用方法が個人に委ねられ、「詳しい人が自主的に使って効率化してくれればいい」という状況に陥ってしまうケースは少なくない。しかし、それでは「プロンプトを上手に書ける人」だけが恩恵を受け、組織全体の生産性は底上げされない。
エクスペリサスのアプローチが実用的なのは、一人が試行錯誤して見つけた「上手なAIの使い方」を、他の社員がそのまま再利用できるデジタルな仕組みを整えたことにある。数日を要していたデータの集計・加工が、短時間で完了できるようになった、他部署や外部パートナーに依頼していた業務を自身で完結できるようになった、などの報告は、AIが専門知識の壁を取り払い、社員個人の能力を拡張している何よりの証拠だ。
また、研修後のアンケートで見られた、浮いた時間を「次の業務改善や仕組み化」に充てているという声も注目に値する。生み出された時間が新たなスキルとして全社に還元されるこの好循環は、一部の社員の習熟度に依存しない、自律的で強靭な組織を生み出している。
誰もが等しくテクノロジーの恩恵を受けられるこのアプローチは、深刻な人手不足に悩む多くの日本企業にとって、持続的な成長を遂げるための重要なヒントとなるはずだ。
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