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2026.05.27

5割が引用ゼロ。宿泊業界を襲うAI検索の壁

「金沢で最高の旅館をいくつか教えて」。旅行者が使い慣れた対話型AIに問いかけ、要約された数件の回答から直感的に行き先を決める時代。かつて主流だった検索窓にキーワードを入力し、複数の広告やリンクを辿る情報収集は、徐々に変化しつつある。一方で、AIの回答に表示されない施設は、ユーザーの選択肢として認識されにくくなるという課題もある。
2026年5月1日、ホテル・旅館に特化したGEO(生成AIエンジン最適化)を手がける株式会社Terrace Rootsが発表した調査結果は、宿泊業界の集客構造における地殻変動を浮き彫りにした。国内主要温泉地の30施設を対象とした検証により、その半数がAIから一度も引用されない「引用ゼロ」の状態にあることが判明したのである。検索結果の1ページ目を奪い合ってきた従来の集客戦略が、AIという新たな門番によって根底から覆されようとしている。(文=AI Base編集部)

検索1位とAI引用の乖離。温泉地30施設の調査が示す現実

Terrace Rootsが2026年5月に公開した調査報告は、京都、金沢、箱根、湯布院、草津の5エリアにある旅館を対象に、ChatGPT、Perplexity、Google AI Modeの3媒体における引用状況を多角的に検証したものだ。計18回の引用機会を設けて質問を投げた結果、驚くべきことに調査対象30施設のうち15施設(50.0%)が、一度もAIの回答に登場しない「AI引用ゼロ施設」であることが確認された。全施設の平均引用率も20.6%という低い水準にとどまっている。

(引用元:PR TIMES

特に注目すべきは、エリア間に生じている極端な可視性の格差である。京都や湯布院では「引用ゼロ」の施設は17%と少数であったが、金沢や草津ではその割合が83%にまで跳ね上がっている。同じ国内の有名観光地でありながら、AI上の存在感には約5倍の開きが生じているのだ。

(引用元:PR TIMES

さらに、草津温泉の「奈良屋」のように18回の引用機会のうち16回も引用される施設がある一方で、同エリア内でも、AIに取り上げられる施設が一部に偏るなど「情報の偏在と集中」の構造も鮮明になった。

(引用元:PR TIMES

この調査が突きつけたのは、従来のSEO(検索エンジン最適化)における順位と、AIによる引用の有無には相関が見られないという現実だ。Google検索で長年上位を維持してきた施設であっても、AIの要約回答からは漏れてしまうケースが多数確認された。インバウンド需要が旺盛な現在、英語クエリでの引用状況は日本語以上に限定的であり、宿泊施設が「見つけてもらう」ための難易度が上昇している実態が浮き彫りとなっている。

「自称」より「他者評価」の時代。AI検索が促す広報戦略の転換

今回の調査結果が示したことは、AI時代における集客ルールが「キーワードの最適化」から、「信頼できる第三者による言及の蓄積」へ変容したという事実だ。AIは宿泊施設の公式サイトが発信する自己情報よりも、観光ガイド、専門家によるレビュー、メディア記事といった「第三者による言及」を回答の根拠として優先的に参照する傾向がある。

京都や湯布院の引用率が高いのは、蓄積された情報の量以上に、AIが評価基準とする専門メディアやガイドブックとの「デジタル上の親和性」が他エリアより高かった可能性を示唆している。逆に、自社サイトの整備に注力していても、権威ある第三者──ジャーナリストや業界の専門家──からの客観的な評価が不足している施設は、AIの信頼を得ることができない。自らの価値を語る「自称」の時代は終わりを告げ、他者からどのように語られているかという「評価の量と質」が集客の生命線となっているのだ。

AIの普及は情報の「見つけ方」だけでなく、「信じ方」の構造をも書き換えた。宿泊業界が直面しているこの課題は、今後あらゆるBtoCビジネスに波及することは間違いないだろう。Terrace Rootsが提示したデータは、広報戦略の主役を「自社」から「信頼ある第三者」へと委ねる大胆な舵取りの必要性を物語っている。AI時代において評価を得るためには、画面上のテクニックだけでなく、実社会における実績や評価の積み重ねというサービス業の本質的な領域へ回帰していると言える。