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2026.03.12

AIを「育てる」教室。次世代の共生教育

小学生が「教育する」立場になる。2026年2月、香川県にある高松市立亀阜小学校で行われた特別授業は、AIと人間の関係性を問い直す場となった。高知・香川を拠点とするAIスタートアップの株式会社Nextremerが持ち込んだのは、自社開発の対話型システム「AIミナライ」。文字通り、まだ「見習い」であるAIに対し、小学6年生の児童たちが自らの考えを注ぎ込み、その個性を形作っていく。AIが単なる「与えられる便利」から「共に創り上げる相棒」へと変わるとき、次世代の創造性はどのような進化を遂げるのだろうか。(文=AI Base編集部)

「AIミナライ」が繋ぐ地域と教育。高松で挑む主体的な学びの形  

高松市立亀阜小学校の教室で実施された特別授業は、自治体と企業が連携した高度な教育DXの実証の場でもあった。教壇に立ったのは、Nextremer 代表取締役である向井 永浩 氏。同社が2025年に高松市で拠点を設立したことを機に実現したこのプロジェクトには、高松市長も視察に訪れるなど、地域を挙げた次世代人材育成への期待が寄せられた。

(引用元:PR TIMES

授業の核となった「AIミナライ」は、もともと電話応対などの実務を自動化するために開発されたAIソリューションだ。その最大の特徴は、専門的なプログラミング知識を一切必要とせず、人間との自然な対話やチャット形式のやり取りを通じて、AIに特定の応対スタイルや知識を「教え込む」ことができる点にある。今回の授業では、この高度な学習インターフェースを教育用に転用。児童たちは1人1台の端末を手に、AIにどのような役割を持たせ、どのような言葉を返すべきかを、対話を繰り返しながら調整していくプロセスを体験した。

約4時間にわたるプログラムの中で、子どもたちは「AIを育てる」という主体的な関わりを通じて、技術の裏側にある仕組みを肌で感じ取った。単にAIに質問して回答を得るのではなく、AIが期待通りの反応を示さない場合に「どう伝えれば理解してくれるか」を考え、言葉を練り直す。授業の終盤には、各自が育てたAIの個性を共有し、学びを言語化した。これは従来の「ICT活用」の域を超え、人間がAIという知能の「ディレクター」として機能する、2026年現在のビジネス現場にも通じる極めて実践的なカリキュラムといえる。

「使う」から「育てる」へ。知能との共生が書き換える創造性の定義

「AIを育てる」という体験は、子どもたちの論理的思考をより高度な次元へと引き上げることに繋がる。AIに意図を正しく伝えるためには、自分自身の考えを極限まで明確にし、構造化・言語化しなければならない。この試行錯誤のループは、客観的に自分の思考を捉え直すメタ認知のトレーニングそのものだ。ここで培われる「AIディレクション能力」は、将来彼らがどのような職業に就こうとも、知能と共生するための最強の武器となるに違いない。

また、Nextremerが進めるこの取り組みは、地方創生における「地産地消の知能」という新たな可能性も示唆している。同社は今後、この実証で得られた知見を観光案内所や行政窓口、交通機関といった実社会のDXへと繋げていく方針だ。地域の子どもたちが、地元のニュアンスや文化をAIに教え込み、そのAIが観光客をもてなす。そんな「知能の地産地消」が実現したとき、AIはどこかの巨大テック企業から提供される「借り物の知能」ではなく、地域コミュニティの一員としてのアイデンティティを持つようになるだろう。

AI教育は「操作方法」を学ぶ段階を終え、人間が知能に魂を吹き込む「創造の作法」へと昇華した。亀阜小学校の子どもたちがAIと向き合った数時間は、技術に支配されるのではなく、技術を「良き相棒」としてデザインし、共に未来を切り拓く主役へと成長するための確かな通過儀礼となったに違いない。画面の向こうで少しずつ賢くなっていく「ミナライ」の姿は、私たちの社会が迎える人間とAIの新しい共生の形を何よりも雄弁に物語っている。