処方箋を受け取った後、待ち時間を利用して買い物に出かける。ドラッグストア併設の薬局では日常的な光景だが、この「一度外出してから戻ってくる患者」への対応が、現場スタッフにとって大きな負担となっていることはあまり知られていない。
混雑のピーク時、スタッフが作業の手を止め「お戻り対応」に追われることで、結果として全体の待ち時間がさらに延びてしまう。そんな薬局特有の悪循環に終止符を打つべく、AI活用による抜本的な改革が始まっている。
神奈川県を中心に展開する株式会社クリエイトエス・ディーが導入したのは、薬局特化型のAIエージェント。当初は「本当に使えるのか?」と懐疑的だった現場スタッフが、今では「なくては困る」と口を揃える。待ち時間を短縮し、働く人のストレスまで軽減したDXの成功事例に迫る。(文=AI Base編集部)
2026年1月15日、株式会社MG-DXは、同社の「薬局受付AIエージェント」を導入したクリエイトエス・ディーの事例インタビューを公開した。
(引用元:PR TIMES )
導入店舗である「クリエイト薬局 羽沢横浜国大駅前店」では、患者の約6〜7割が処方せん提出後に買い物や外出をしてから戻ってくる「お戻り患者」だという。これまでは、患者が戻るたびにメディカルアシスタントが作業を中断して対応しなければならず、業務の分断が常態化していた。特に夕方の混雑時には対応が後手に回り、待ち時間が長引く要因となっていた。
今回導入されたAIエージェントは、このボトルネックを見事に解消。成功を支えたのは、現場の既存業務フローを尊重した導入プロセスだ。一般的に、新システムの導入は現場に新たな手順を強いることが多いが、今回は使い慣れた既存の与薬表示システムとAIを連携させることで、スタッフが違和感なく移行できる環境を整えた。ツールありきではなく、現場の運用にツールを合わせる姿勢が、スムーズな定着を生んだと言える。
(引用元:PR TIMES )
お戻り患者が来店するとAIが受付を行い、その情報が調剤室内のPCへ即座に通知される。スタッフは受付カウンターへ行く必要がなく、そのまま調剤室でお薬の準備に入れるため、無駄な動線が一切なくなったのだ。
結果として、お戻り対応からお薬のお渡しまでが1分以内で完結するようになり、薬局全体の平均待ち時間も2〜3分短縮されるという目に見える成果が生まれた。
この事例が示唆に富んでいるのは、AI導入がトップダウンの押し付けではなく、現場主導で「自分たちのもの」へと昇華された点だ。当初は操作に戸惑う声もあったが、「現場を楽にする」という目的が共有されていたことで、スタッフたちはロボットに名札を付けたり声かけを工夫したりと、積極的にAIをチームの一員として迎え入れた。無機質な機械として扱うのではなく「同僚」として接する主体的な姿勢があったからこそ、「なくてもいい」存在から、業務になくてはならない「パートナー」へと認識が変わっていったのだ。
医療事務の採用難が深刻化する中、AIが定型業務を肩代わりし、スタッフが働きやすい環境を作ることは、人材の定着においても極めて重要な戦略となる。マイナンバーカード対応などで業務負荷が増え続ける現場において、テクノロジーは多忙な医療現場を支え、スタッフの余裕を生み出すための必須のインフラだ。
同社は今後、処方箋受付や遠隔服薬指導へのAI活用拡張も視野に入れている。この「患者の利便性」と「スタッフの働きやすさ」を同時に叶える取り組みは、人に優しいDXのモデルケースとして、業界全体のスタンダードになっていくに違いない。