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2026.03.03

福祉の事務負担もAIで軽減できる 【連載】あの人にAIについて聞いてみた

AI活用は「便利」で終わらない。現場の時間の使い方、意思決定、そして競争のルールまで変えていく。では、AIはどこまで仕事を肩代わりし、人は何に集中すべきなのか。本連載は、AIとどう向き合い、どのように活用し、何を人が担うのかを当事者の言葉から掘り下げていく。今回は、福祉領域でAIソリューションを展開するDeepwell代表の塚本大智さんに聞いた。書類作成・記録・請求という“見えない負荷”を、AIはどこまで減らせるのか。(AI Base編集部)

お話を聞いたのは・・・

Deepwell株式会社 代表取締役
塚本大智さん

大阪を拠点に、2025年9月に医療・福祉領域に特化したAIソリューション企業を創業。業務を分解し「人が担うべき領域」と「AIで効率化できる領域」を切り分け、現場実装を重視する。身内の障がいと福祉現場の経験を背景に、非効率の解消を使命に掲げる。

福祉の事務を自動化し、ケアに時間を戻す

急速な少子高齢化が進む日本で、福祉は社会インフラの中核にある。一方で現場には、紙・手入力・属人的運用が残りやすい。Deepwellは、その「遅れ」を責めるのではなく、構造として捉え、AIで“空いた時間”を現場に返すことから始めている。

同社で代表取締役を務める塚本大智さんは、自社の立ち位置を明快に言語化する。
「弊社は福祉業界に特化した形のAIソリューションを提供している会社です。福祉業界は介護福祉、障がい福祉、児童の発達支援などに分かれますが、業務の半分は人と人が接するところ、もう半分は記録や請求などバックオフィス側の作業です。後者の半分をAIで自動化・業務効率化していくのが、弊社の価値だと思っています」(塚本さん)

福祉の現場では、利用者の特性、長期・中期目標、日々の経過、支援・ケア計画といった情報を、制度に沿って書類に落とし込み、行政提出や請求へつなげる必要がある。ここが滞ると、現場が回らない。Deepwellが狙うのは、「書く」「整える」「提出する」といった業務をAIで肩代わりさせる領域だ。面談内容やメモを音声で取り込み、計画書や報告書に落とす流れまで射程に入れる。
「行政に対する資料作成や計画書の作成を、AIを使って自動化し、より人と人が関わることができる時間を生み出していきたいと考えています」(塚本さん)

同社は、「AIを使いこなせている人」ではなく、「AIの進化に追いつけていない人」を支援することに重きを置く。
「AIの進化は本当に早い。だからこそ、まだ使いこなせていない方を押し上げるのが価値だと定義しています。せっかくこれだけ素晴らしい技術なので、老若男女問わずに使える土台を作っていきたいです」(塚本さん)

塚本さんは指摘する。
「特に製造業や福祉業界において、AIを活用できる余地が多くあると考えています。背景として、業界人材の高齢化やベテラン社員への属人化が進んでいるため、最新の取り組みが取り入れにくい状況があるように思います」(塚本さん)

AIの進化そのものについては、日々活用する中で、この時代を生きられていることに手応えがあると塚本さんは言う。
「以前アパレル事業を手掛けていた時代に、もしもAIがあったら、もっとできる幅が広がったと思います。AIは数日で新しい進化が出る。これからどのような世界になっていくのかワクワクします」(塚本さん)

ただし、楽観だけでは終わらない。AIが「アイデアを出す」コストを急落させた結果、勝負は次の局面へ移ったと見る。
「企画やアイデアを巡らせるのはすごく速くなりました。一方で、多くの人が同じようにアイデアを出せるようになった。そうなると、これまで以上に実行力や人とのつながりが勝負になる。さらに一歩抜きん出るのが逆に難しくなったと思います」(塚本さん)

AIは壁打ち相手。人は信頼を磨く

では、塚本さんは日々どのようにAIを使っているのか。塚本さんは「AIは使うのが当たり前。あらゆることに活用しています」と語る。
「例えば企画を考えたり、書類を作成したり、AIエージェントも積極的に使っています。メールは7割くらい自動化しています」(塚本さん)

営業活動や会議においては、AIが良き「壁打ち相手」になっているという。自分たちの視界に入っていない論点を拾い、次の打ち手の選択肢を増やすためだ。

「自分の頭や、社内会議だけでは見えてなかった視点はAIからもらうこともあります。限られた人員であっても、AIがあることでチーム力も飛躍的に高まったように思います」(塚本さん)

福祉領域ならではの使い方もある、と塚本さんは言う。
「福祉業界では、もちろんイレギュラーな対応があります。ただ、こうした状況においても、対象の方の特性や状況を整理して入力し、対応の選択肢をAIに出させることはできると思います」(塚本さん)

人の性格や状況を言語化し、見落としていた選択肢を広げる。意思決定の「補助線」として置いている。AIが、判断の代替ではなく、判断の準備に使われていることが印象的だ。

プライベートでの活用も教えてくれた。塚本さんは、家の中の隙間時間にAIとの対話を行っているという。
「朝の身支度をしているときや掃除しているときなど、何気ない時間にChatGPTを開いて音声モードで壁打ちしています。感情に流されないですし、客観的で俯瞰的な目線で判断してくれる。自分の思考がより深まっています。ここでは、『あなたはコンサルティング会社の一流のコンサルタントです』『あなたは〇〇の会社の社長です』など、細かくロール設定をして、どう判断したらいいのかを相談するようにしています」(塚本さん)

塚本さんは、AIが強くなるほど「人間が担うべき領域」が前景化すると考えている。
「目を見て喋ることはAIにはできません。ロボットは人を持ち上げたり運んだりできても、感情や安心感は載せられない。AIに言われたからやる、のではなく思いや熱があるからやる。AIが普及するほど『信頼』と『熱量』を扱える人間の価値が相対的に上がるのではないでしょうか」(塚本さん)

最後に、AIを使いこなせていない読者への助言を求めると、塚本さんは力強く答えてくれた。
「AIを活用できていない企業や人はまだ多い。だからこそ、今この瞬間にAI活用を始めた企業や個人には、先行者としての優位が生まれる。私が支援する福祉業界など、AIがまだまだ普及してない業界も山ほどある。今のチャンスを是非逃さず、挑戦してもらいたいですね」(塚本さん)

AI活用のヒント】

・AIは「客観」と「俯瞰」をくれる壁打ち相手。ロール設定で視点を切り替え、判断の材料を増やす
・隙間時間に音声でAIと対話。身支度や掃除中にも思考が前に進む
・普及していない領域ほど差がつく。今使い始めること自体が競合優位になる