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2026.03.09

AIがもたらす、旅行会社の新たな転換期~【連載】あの人にAIについて聞いてみた

創業120年の老舗・株式会社日本旅行。旅行会社でありながら、国の基幹ロケットや民間衛星打上げ時の渉外業務、観光事業の受託など、幅広い取り組みを行っている。未知の領域である宇宙ビジネスを進める中で、旅行業界にもAIによって新たな転換期が訪れているという。日本旅行 宇宙事業推進部マネージャーの中島 修 さん自身の日々の活用法から、アナログな慣習が残る旅行業界がAIによってどう変わっていくのか、その未来図について中島さんの考えを聞いた。(文=AI Base編集部)

※あわせて読みたい:SpaceStepインタビュー記事:「冒険」を「旅行」に変える。宇宙での“おもてなし”実装論

株式会社日本旅行
宇宙事業推進部マネージャー
中島 修さん

明治大学商学部を卒業し、日本旅行に入社。2011年にJAXAのロケット打上げ支援業務で人生初の打上げを体感し、圧倒的なスケールと世界観に魅了されて宇宙の世界へ。

宇宙の可能性に挑戦したいという思いから、社内に宇宙事業の専門部署を立ち上げる。これまでに国内外で60回以上のロケット・衛星打上げ支援に携わり、現在は将来の宇宙渡航時代を見据えた幅広い宇宙ビジネスへの取り組みや、宇宙を資源とした地域づくりと共に宇宙教育の普及にも努めている。

「友達」感覚で思考を整理。AIは最強の壁打ち相手

旅行会社でありながら、宇宙事業という特別な取り組みを進める中島さんにとって、AIは欠かせないパートナーとなっている。もはや「友達」のような感覚で、日々の業務における思考の整理や、企画の壁打ち相手として活用しているという。

「自分の頭の中にあるアイデアをAIに投げかけ、『この企画の論理に矛盾はないか』『会社の方針と整合性は取れているか』といった壁打ちを行っています。自分一人では気づけない視点や、論理の飛躍を指摘してくれるので、思考の整理に非常に役立っています」(中島さん)。

一方で、世の中には「AIは使えない」「嘘をつく」といったネガティブな意見もある。これに対し中島さんは、「AIを道具として扱う側の『分別』の問題」と指摘する。「AIは包丁と同じです。使い手が間違った使い方をすれば人を傷つけることもありますが、正しく使えば美味しい料理を作ることができる。AIが生成する情報には誤りが含まれる可能性があることを前提に、最終的な判断は人間が行う。そのリテラシーさえあれば、これほど強力な武器はありません」(中島さん)。

また、教育現場にも深く関わる中島さんは、子どもたちのAI利用についても言及する。デジタルネイティブである今の子どもたちは、心理的ハードルなくAIを使いこなすが、同時に「思考プロセスを省略して答えだけを求める」危うさもはらんで いる。AIを、単に楽をするための手段にするのではなく、自らの可能性を広げるためにどう活用すべきか。そのための「分別」を子どもたちが持てるように導くことこそが大人の役割だと、中島さんは強調する。

旅行代理店の未来 〜「AIコンシェルジュ」が予約完結まで伴走する

話題は、中島さんが身を置く旅行業界のAI活用へと移る。旅行商品は「形のない高額商品」だ。失敗したくないという心理が働くため、消費者は多くの情報を求め、慎重に検討する。しかし、その裏側で動く旅行代理店の実務は、いまだにアナログで労働集約的な側面が強い。

「旅行の手配業務は、実はものすごく高コストなんです。ホテルの空室確認や価格調整など、裏側では膨大な手作業が発生しています。人手不足が深刻化する中で、このままでは業界自体が立ち行かなくなる」と、危機感を募らせる。

そこで中島さんが描くのが、AIによる完全自動化された「AIコンシェルジュ」の構想だ。LINEのようなチャットツールで相談すれば、予約完了までシームレスに行える。そんな世界の実現を見据えている。

「今の旅行サイトは自ら検索する必要がありますが、未来のAIはもっと能動的です。『来週、箱根に行きたい』と伝えれば、過去の履歴から最適なプランを提案し、予約から決済まで完結してくれる。そんなスーパーコンシェルジュのような存在が実現できたらよいのではと思っています」(中島さん)。

さらにその先には、マイナンバーや健康データとの連携による究極のパーソナライズ化という、より壮大な可能性も描き出している。ワクチン接種歴から渡航可能な国を提案したり、免許証情報からレンタカーを自動手配したりと、個人の状況に合わせて必要な手続きを先回りして処理する。それこそが、真の「コンシェルジュ」のあるべき姿だという。

AIが煩雑な事務を担うなら、人間の役割はどこにあるのか。中島さんは「人間は、人間にしかできないことに集中すべきだ」と力を込める。

「空室状況の確認や予約処理などの作業はAIに任せ、人間は『どんな旅なら感動できるか』という企画の創造や、温かいおもてなしといった付加価値を生む仕事に時間を使うべき。AIに仕事を奪われるのではなく、AIがあるからこそ、人間は本来やるべきクリエイティブな仕事に回帰できるのです」(中島さん)。

宇宙という最先端のフロンティアを見つめる中島さんの視線の先には、テクノロジーと人間が共存し、より豊かな「旅」体験を生み出す未来図がはっきりと描かれていた。

AI活用のヒント】

・AIは思考の「壁打ち相手」。企画の整合性チェックに活用し、論理を強化する
・「使えない」と嘆く前に、道具としての正しい「分別」を持つ
・面倒な処理はAIに任せ、人間は「感動体験」の創出など付加価値業務に注力する