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2026.02.16

広報の現場で起きている、静かなAIシフト【連載】あの人にAIについて聞いてみた

AI活用はもはや一部の専門職に限られたものではない。日々の業務に追われるビジネスパーソンにとって、AIをどう使い、どう付き合うかは現実的なテーマとなりつつある。AI Baseの連載「あの人にAIについて聞いてみた」では、現場で働く一人ひとりの視点からAIとの向き合い方を紐解く。今回は、GMOペパボで広報を担う田辺沙緒里さんに、仕事と生活の両面からAI活用の実感を聞いた。(AI Base編集部)

お話を聞いたのは・・・

GMOペパボ株式会社
コーポレートコミュニケーション室 広報チーム田辺 沙緒里さん

多彩な業種のプレスリリース作成・校正実務を経て、2018年3月にGMOペパボ株式会社へ入社。広報担当としてメディアリレーションや取材対応、イベントPRの統括など多岐にわたる業務に従事する。
現在は、会社の方針のもとAIによる業務効率化に取り組んでいる。「AIが担える業務はAIに任せ、人間は人間にしかできない対話に注力する」という信念のもと、テクノロジーを賢く味方につけ、本質的な広報の在り方を追求している。

広報の現場で、AIはいつから“当たり前”になったのか

GMOペパボは、個人から法人まで、さまざまな「インターネットでの表現活動」を支援してきた企業である。レンタルサーバーやEC関連サービス、ハンドメイドマーケット、配信者向けの配信画面デザインサービスなど、その事業領域は幅広い。根底にあるのは「人類のアウトプットを増やす」というミッションだ。

田辺 沙緒里さんが所属するコーポレートコミュニケーション室は、2025年11月に新設された部署である。会社のブランド価値向上を目的に、広報チームとデザインチームが連携し、ユーザーやメディア、投資家など、社内外の多様なステークホルダーとのコミュニケーションを設計している。田辺さん自身は広報チームの一員として、情報発信だけでなく、社外との関係構築や社内へのブランド浸透にも関わっている。

こうしたインターネット企業の中核にいる立場から、近年のAI技術の進化をどう見ているのか。田辺さんは、GMOインターネットグループ全体として、早い段階からAI活用を「武器」として位置づけてきた点を強調する。
「AIが出てきた当初、情報漏洩やハルシネーションを理由に、利用を控える企業も多かったと思います。GMOインターネットグループでは、AIを使って仕事をより良くしていくという方針が最初からありました」(田辺さん)

象徴的な取り組みとして、田辺さんが挙げたのが、2023年2月に行われた社内開発合宿だ。
「エンジニアやデザイナーだけでなく、バックオフィスを含む全職種が自由に参加できる開発合宿です。この年は、AIをテーマに様々なプロダクトが作られました。そこから既存サービスへのAI実装が一気に進んだように感じます」(田辺さん)

さらに同年末には、社内外の問い合わせ対応をAIで行う方針が打ち出され、2024年初頭には社外問い合わせの一次対応が全面的にAI化された。

写真は2025年に開催された「お産合宿」の様子(写真提供=GMOペパボ)

急速な導入の一方で、広報という仕事柄、「メディアの方とのやり取りをAIに任せるのは失礼ではないか」という感覚や不安もあったという。
「例えば、メディアの方向けのメールなどをAIで下書きすることに、最初は抵抗がありました。でも実際に使ってみると、構成や表現がとても分かりやすくて、『もしかしたら自分より上手いかもしれない』と感じるようになったんです」(田辺さん)

こうした経験を通じて、AIは人の仕事を奪う存在ではなく、仕事の質を高める補助線になり得るという認識が田辺さんに芽生えた。こうしたAI活用の機運は、社内にも徐々に広がっていったという。
「例えば当社のエンジニアの間でも、『コーディングすること自体』より、『何を設計し、何を実現するか』に意識が変化しているように感じます。AIの進化は『楽になる未来への期待』と『情報量の多さへの不安』の両面があると思いますが、正しく情報をキャッチアップしてAIを味方につけることで確実に働き方の前提が変わってきていると思います」(田辺さん)

AIを「使える存在」に変えた、日常業務の工夫

田辺さんのAI活用は、業務の中でも特に「考える前段階」で力を発揮している。
「広報の仕事では、社内視点だけでなく、メディアや読者といった社外視点も不可欠です。そこで、例えば企画書を作るときに、メディアの目線や一般の読者目線でどう見えるか、などをAIに聞きます。専門用語が多すぎないか、この前提知識がないと分かりづらくないか、広告的になっていないかといった点を客観的に指摘してくれるんです」(田辺さん)

また、アイデアの壁打ち相手としてもAIを活用している。ここで重要なのは、目的に応じた使い分けだ、と田辺さんいう。
「定型的な文章、例えばプレスリリースの場合は、要件をきちんと定義した方が、精度が上がります。一方でアイデア出しのときは、条件を絞りすぎない方が、想像を超える答えが返ってきます」(田辺さん)
 

繰り返し使う業務については、指示内容をツールとして保存・チームに共有し、チーム全体の効率化にもつなげている。こうした積み重ねによって、田辺さん自身の時間の使い方も変わった。
「目の前の業務に追われていた時間が減って、メディアの方と直接お会いしたり、記事を読んで感想を伝えたりする余裕が生まれました。今回『AI Base』の取材をお受けできたのもAIのおかげもあるかもしれません(笑)人にしかできないコミュニケーションに時間を使えるようになったのは大きいですね」(田辺さん)

プライベートでのAI活用も実践的だ。家電の不調時に説明書に載っていない対処法を聞いたり、海外旅行中にメニューを翻訳したりと、生活の「困った」をその場で解決してくれる存在として使っている。

中でも印象的なのが健康管理だ。従来のカロリー管理アプリでは三日坊主だった田辺さんだが、AIに食事内容や体調、食事時間を伝えることで、状況に応じたアドバイスを受けている。
「『夜遅くなりそうだけど揚げ物を食べていい?』と聞くと、頭ごなしに否定せず、『今日は頑張ったんですね。これだけ守りましょう』と具体的に、寄り添って提案してくれます」(田辺さん)

AIは叱らない。恥ずかしがる必要もない。その特性が、継続を後押ししているという。
「失敗しても怒られない、何度聞いてもいい。まるで優しいコンシェルジュみたいな存在です」(田辺さん)

まだAIを使いこなせていない人へのアドバイスを尋ねると、田辺さんは「気負わないこと」を挙げた。
「AIをどのように使えばよいか考える前に、まずは気負わずに使ってみることをお勧めします。冷蔵庫にある材料で作ることができる献立を聞くとか、ゴミの日を確認するとか、本当に身近なことからでいいんです。AIは特別なスキルではなく、日常の延長線上にあるツールです。隣に座っている同僚に話しかけたり、友達に聞いてみたりするのと同じ感覚で、気軽に話しかけてみて、感覚をつかむことが、仕事での活用にもつながっていくのではないでしょうか」(田辺さん)

AI活用のヒント】

・AIは文章作成や壁打ちに使うことで、考える時間と質を同時に高められる
・定型業務とアイデア出しで使い方を分けると、AIの力を引き出しやすい
・まずは生活の小さな相談から。気負わず使うことがAI活用の第一歩となる