
生成AIが仕事の前提になりつつある今、働く現場にも大きな変化が起こっている。本連載では、一人ひとりの頭の中にあるAIについての見解や具体的な活用術を紐解くことで、「AIに聞いても教えてくれない」、人の頭の中にあるAI活用のヒントを探る。今回は、株式会社オーイーシーでDX推進を担い、社内のAI活用の推進も牽引する坂本将幸さんに話を聞いた。AI活用を進める中で見えてきた、つまずきやすいポイント、現場の空気が変わった転換点、そして「完璧を求めない」という実践的な考え方とは⁉(AI Base編集部)

株式会社オーイーシー
DX推進事業部 DX推進部 部長
坂本 将幸さん
大分県大分市出身。東京のシステム会社で電子カルテ開発に従事した後、Uターン。株式会社オーイーシーに入社後は、医療・ヘルスケア系のシステム開発・提案を経て、現部署に所属。現在はDX推進部長として、AIや衛星データの技術研究を行いながら、新規ビジネスやソリューションの創出に取り組んでいる。
2026年に創立60周年を迎える株式会社オーイーシーは、大分県を拠点に全国42都道府県で事業を展開するIT企業である。自治体向けシステムを中心に、システム開発からハードウェア販売、ネットワーク構築までを一貫して手がけてきた。同社でDX推進部長を務める坂本将幸さんは、研究開発部門に身を置きながら、新規事業の立ち上げや先端技術の社会実装に取り組んできた人物だ。
坂本さんは、近年の生成AIの進化を「驚きの連続」と表現する。
「正直に言うと、2~3年前は社内でも個人情報流出の懸念が強く、使いたい気持ちはあっても慎重にならざるを得なかった」(坂本さん)
しかし現在、社内の空気は一変しているという。経営層から「AI活用を前提に業務を見直す」という明確なメッセージが出され、全社員を対象にした研修も体系化された。「使わないといけない」という意識が、組織全体に共有されつつあるという。
その背景には、外部環境の変化もある。
「お取引先企業主催の勉強会でも、具体的な成功事例が数多く共有されるようになりました。企業向けにセキュリティが担保された生成AIサービスが登場したことも大きかったですね」(坂本さん)
安全に使える環境が整い、効果が見える形で示されたことで、AIは「試すもの」から「使うもの」へと位置づけが変わった。
業務の進め方も大きく変化している。坂本さん自身、何か課題があれば「まずAIに聞いてみる」ことが習慣になったという。
「これまでのやり方を前提にするのではなく、AIを使ったらどう変わるかを起点に考えるようになりました。資料作成や企画立案では、構成やストーリーをAIに相談することで、最初から筋の通ったアウトラインが得られます。結果として、手戻りが減り、考えるべき本質に集中できる時間が増えたのは嬉しいですね」(坂本さん)
人材育成の面でも影響は大きいという。
「以前は若手の報告書を見ると、まず誤字脱字や文章構成のチェックから入っていました。今はその部分をAIが補ってくれるので、内容そのもの、つまり『何を感じ、何を学んだのか』に目を向けられるようになりました」(坂本さん)
AIは単なる効率化ツールではなく、上司と部下のコミュニケーションの質を高める役割も果たしている。その一方で、課題もある。AIを使わない人の特徴について、坂本さんはこう語る。
「自分事になっていないこと、完璧な答えを求めすぎること、そしてクレームリスクを恐れすぎることです。生成AIは万能ではありません。だからこそ『10%でも助けてくれればいい』という感覚が重要だと思うんです。100点を求めると使えない。でも10点でも価値があると考えれば、使うハードルは一気に下がります。気づけばその10点が20点、30点と積み上がっていきます」(坂本さん)
AIの進化は、仕事を奪うかどうかという単純な議論では語れない段階に入っている。坂本さんは、これから求められるのは文章を書く力そのものではなく、「出てきた情報の価値を見抜き、取捨選択する力」だと強調する。
「AIがある前提で、何に人が集中すべきか。その問いを立て続けることが、これからの仕事には欠かせません」(坂本さん)
坂本さんのAI活用は、多岐にわたる。まず仕事面では、システム開発現場での活用が進んでいる。
「プログラミングでは、生成AIにコードを書かせることが当たり前になりつつありますね。新人でも一定レベルのアウトプットが出せるようになりました」(坂本さん)
その一方で、コードの品質をどう担保するかという新たな課題も生まれている。
「生成するスピードが速すぎて、人がチェックするのに時間がかかるケースもあります。設計工程の重要性は、むしろ以前より高まっているように感じます」(坂本さん)
営業や提案活動でもAIは活躍する。顧客情報のリサーチや提案内容の壁打ち、業界別セミナーの内容検討など、考える前段階をAIが支える。
「製造業向けなら何が刺さるか、医療分野ならどんな切り口がいいか。そうした問いをAIに投げながらブラッシュアップしています」(坂本さん)
技術的には、一般的な生成AIサービスと、自社で構築したRAG環境を併用するハイブリッド型を採用している。社内規定を読み込ませたAIを作り、実務に即した回答を得る試みも進めているという。さらに、生成AIを自社製品に組み込む開発にも着手している。
プライベートでの活用も印象的だ。
「中学生の子どもが生徒会副会長に立候補することになり、3分間の演説原稿を考える必要がありました。時間のない中で、まず生成AIに原稿を作らせ、分量感を把握。その上で、本人の言葉に書き換えていきました。もちろん最終的には子ども自身の言葉にするのですが、最初の叩きとしてはすごく役立ちましたね」(坂本さん)
翌日には「3分をさらに1分に短縮してほしい」とリクエストされ、再びAIで調整したというエピソードからは、AIが柔軟なサポーターとして機能している様子がうかがえる。
家庭では、子どもたちが自然にAIを使っているという。天気予報を聞いたり、自由研究のテーマを相談したりする姿は、すでに日常の一部だ。
「数学の問題を聞けば答えが出てきてしまいます。それが良いのかは悩むこともありますが、使いながら必要な力を見極めるしかないですね」(坂本さん)
では、まだAIを使いこなせていない人は、どこから始めればいいのか。
「まずはGoogle検索をAIへの相談に置き換えてみること」
これが坂本さんの一番シンプルなアドバイスだ。音声機能を使って話しかけるだけでもいい。
「いきなり業務で使うのが不安なら、使っていそうな人に聞いてみる。あるいはオンライン研修や入門講座をこっそり受けるのも一つです。当社の社内でも『1~2時間かかっていた作業が数分で終わった』という体験をきっかけに、意識が大きく変わった人が多いんです。便利さを体感すると、もう戻れません。その体験をどう作るかが、推進する側の役割だと思っています」(坂本さん)
AIは使うか使わないかではなく、どう付き合うかの段階に入っている。坂本さんの言葉は、AI活用に踏み出せずにいる人にとって、現実的で背中を押すヒントに満ちている。
【AI活用のヒント】
・完璧を求めず、10%でも助けになれば使ってみるという発想を持つ
・まずは検索をAIへの相談に置き換え、気軽に触れる習慣をつくる
・AIの出力をうのみにせず、価値を見抜き取捨選択する力を磨く