
AIは、実務や感情など様々な面で役に立つ存在となり、仕事や生活の向き合い方にも変化をもたらしている。さまざまなお立場の方にAIについて聞いてみる本連載。今回は、AI活用が急速に進むドバイで暮らし、街を案内し、風景を撮り続ける原田 篤さんにAIについて話を聞いた。(AI Base編集部)
お話を聞いたのは・・・

ツアーガイド/フォトグラファー
原田 篤さん
結婚式のエンドロール撮影からキャリアをスタート。2013年にオランダ・ハーレム及びアムステルダムを拠点に、アーティストやミュージシャンの撮影に携わりながら、クラブシーンやスタジオ、プレハブ街といった個性的な空間を撮影。これまで、公益財団や企業、日本のメディア、オランダの新聞などへ写真を提供。日本のロックバンド「Guitar Wolf」のツアーフォトグラファーとしても幅広く活動。現在は、アラブ首長国連邦 ドバイに拠点を移し、都市と文化の変容、人々の営みと風景の記録に取り組む。約2年間、日本人向けのドバイツアーガイドとしても活躍。
現在、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイでツアーガイドやフォトグラファーとして活躍。『JapanStep』の連載「越境スピリット~世界で輝く日本人」にも登場頂いた原田 篤さんが語るドバイにおけるAI活用の最前線は、「便利なツールが増えた」という段階をすでに通過している。街のサービス設計そのものにAIが組み込まれ、生活者は意識せずに恩恵を受ける。行政の問い合わせ対応が自動化され、ドライバーレスの電車(運転手なし)などのモビリティ移動の導線もAIで最適化される。結果として、住民は「AIを触っている」より先に、「AIが前提の街で暮らしている」感覚を持つようになるという。
ドバイメトロ。自動運転で都市を支える公共交通。(写真提供=原田篤)
ドバイメトロ「エミレーツ・タワーズ駅」自動運行システムのスマートステーション(写真提供=原田篤)
「日常的に身近なもので、公共施設への問い合わせや電車の利用など、目に見えない形でも活用されています。ドバイという街にいると、AIはすごく身近で当たり前のものとして感じますね」(原田さん)。この「当たり前」を支えているのが、国家としての実装方針である。原田さんは、ドバイが掲げる「最先端都市」という旗印を、スローガンではなく投資の継続として捉えている。都市機能のデジタル化が進むほど、生活の速度は飛躍的に高まる。ドバイ政府が提供する統合デジタルプラットフォームで、「DubaiNow」がある。公共料金の支払いや交通関連手続き、車両登録、運転免許更新、出入国・居住管理、学歴証明、フライト追跡など、日常生活に必要なサービスを一元化して提供しているものだ。行政・民間サービスを横断的に統合することで、都市生活の効率を大幅に向上させているという。
Mohammed bin Rashid Al Maktoum Solar Park(ムハンマド・ビン・ラーシッド太陽光発電所)内の展示(写真提供=原田篤)
一方で、都市運営の高度化に伴い、統治の精度や制度運用も洗練されてきている。治安の良さで知られるドバイは、5Gやデジタルインフラを活用した都市管理、データに基づく公共サービスの最適化などにより、安全性と効率性を両立してきた。こうした環境では、オンラインを含む公共空間において一定のルールや社会的規範と統制が共有されており、秩序ある都市運営が支えられている。原田さんは、利便性の高いデジタル社会の恩恵を受ける一方で、制度とテクノロジーが密接に結びついた都市の特性を、日常生活の中で実感しているという。オンライン上の言動に対する一定の規範意識──原田さんは、その利便性と緊張感の両面を日常の中で実感している。
ドバイにある金融特区・金融ハブDIFC(Dubai International Financial Centre/ドバイ国際金融センター)(写真提供=原田篤)
さらに象徴的なのが、UAE在住約1100万人全員に有料版AIを提供するという話題だ。これはAIを一部の先進層の道具から、社会インフラへ押し上げる政策である。AIを活用することで、行政・教育・ビジネスの底上げにつなげたいという政府の狙いが透けて見える。原田さんが言う「携帯電話と同じで、すぐそこにある」という表現は、AIが生活必需品になる未来像そのものだ。
「この環境に身を置いていると、AI活用の問いが変わります。何のツールを選ぶかではなく、どこまでをAIに委ね、どこから人が引き受けるか。便利さの向こうに、価値判断と責任の線引きが立ち上がってくるように思います」(原田さん)
「イノベーション」をスローガンに掲げるドバイの日常は、AIの社会実装が進んだ「近未来」ではなく、すでに始まっている「現在」だ。「中東最大級のテクノロジー見本市として、世界中の企業やスタートアップが集まるプラットフォーム「GITEX」があります。2025年は特にAI分野に注目が集まり、生成AIや業務自動化AIなど最先端技術の実例を体験できるものでした」(原田さん)

「GITEX 2026」を告知するプロモーション看板(写真提供=原田篤)
エミレーツタワーから望む近代都市ドバイの景観(写真提供=原田篤)
原田さんのAI活用は、派手な自動化よりも「現場で困らないための補助」と「自分を整えるための壁打ち」に寄っている。ツアーガイドの仕事では、建物の名称、歴史的背景、年号、固有名詞など、うろ覚えのまま口にすると信用を落としかねない情報が多い。しかもドバイは変化が速く、新施設や再開発の情報が次々に更新される。だからこそ、短時間で確認し、説明の精度を担保する道具としてAIが効く。「実際、ツアーガイドのサポート役として役立つシーンがかなりあります」(原田さん)
ドバイにある「未来博物館」の外観(写真提供=原田篤)
こちらは「未来博物館」の内観。ドバイではテクノロジー、テック、AI関連の展示会も定期的に行われているという(写真提供=原田篤)
この使い方のポイントは、AIを「答え」として扱わないことだ。原田さんは、ガイド業界でもAIの信頼性が話題になると語る。もっともらしい誤り(ハルシネーション)が混じる以上、AIは一次情報にアクセスするための入口であり、最終確認の代替ではない。「AIは良きアドバイザーですが、頼りすぎずに、うまく共存することが大切だと思います」(原田さん)
もう一つの活用が、個人的な相談相手としてのAIである。多国籍な環境では、価値観の違いが日常的に摩擦を生む。相手の言葉をどう受け止めるか、自分の反応は正当か、線引きはどこか。感情が先に立つと判断が荒れる場面で、原田さんはAIに状況を言語化して投げ、整理の手がかりを得る。
「AIはとにかく優しい(笑)。異文化コミュニケーションで悩んだ際に、AIに聞いてみることもあります。一度ワンクッション置くことで冷静になれるし、頭の整理のための壁打ち相手にもなっていますよ」(原田さん)
AI Base読者が今日から真似できる「AI活用三つのコツ」を原田さんは教えてくれた。第一に、目的を分けること。仕事は事実確認と構成支援、プライベートは気持ちの整理と視点の追加。混ぜないだけで精度が上がるという。
第二に、質問の仕方を具体化すること。「何が正しい?」ではなく、「前提はこれ。制約はこれ。候補を3つ出して、根拠も示して」とできるだけ具体的に頼む。第三に、最後は自分の一次情報へ戻ることだ。現地で見たもの、取材で聞いた言葉、自分が感じた違和感──それらが芯にあって初めてAIは加速装置になる。AIを相棒にするとは、依存することではなく、判断の主語を手放さないことである。
ドバイ万博2020の夜景の一枚。JMPでは、2026年ドバイを紹介する連載を原田篤さんと企画中。ご期待ください(写真提供=原田篤)
【AI活用のヒント】
・まずは小さな場面からでも良い。AIを日常のインフラに
・忘れた知識の補助や、感情を整える壁打ちに使える(ただし結論を急がず、ワンクッション置くことも重要)
・AIを過信せず、最終確認は必ず一次情報へ戻る