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2026.01.09

AI時代の就職活動、決め手は「問い」【連載】あの人にAIについて聞いてみた

生成AIは、就職活動の「書く」「調べる」の在り方に変化を与え、キャリア選択のプロセスそのものを更新しつつある。AI活用を多様な視点で学ぶことを目的とする本連載。今回は、大学生の就職活動を現場の第一線で支える日本大学商学部 就職指導課長の友寄 秀俊さんにAIをテーマに話を聞いた。別の部署を経て、8年ぶりに学生のキャリア支援の最前線へ戻った友寄さんが見たのは、早期化・分散化する就職活動と、AIで「整う」文章が増える現実だった。そんな時代だからこそ決め手となるのは、何をどう問うか──「問い」の力だという。(AI Base編集部)

お話を聞いたのは・・・

日本大学 商学部就職指導課長
友寄 秀俊さん

日本大学 商学部就職指導課長。2001年 日本大学に職員として入職後、文理学部会計課、就職指導課、教務課を経て、本部学務課、法務課、大学評価室、就職課に在籍。2022年より現職。学生のキャリア支援歴は
15年でこれまで約20,000人の支援を行う。学生・保護者向けの進路講演、ガイダンスの企画運営、個別支援体制の整備などを担当する。国家資格キャリアコンサルタント。著書・監修に『REAL就活 エントリーシート 志望動機・自己PRの書き方がわかる本』シリーズ(洋泉社)など。

就職活動は早期・分散へ。AIで「整う」時代の現場

日本大学 商学部就職指導課長 友寄 秀俊さんの仕事は、学生の就職活動を「手続き」として前に進めることではない。学生一人ひとりの迷いの背景をほどき、選択の軸をつくり、納得して決めるところまで伴走する役割だ。商学部就職指導課長として、ガイダンス設計や個別面談の体制づくりに加え、学生の相談の最前線にも立つ。

2022年、友寄さんは8年ぶりにキャリア支援の現場へ戻った。そこで実感したのは、学生の気質と環境が「別物」と言っていいほど変わっていたことだ。コロナ禍を経て対面の経験が薄い学生も増え、就職活動の情報源も多層化した。かつては就職情報サイトを中心に情報収集し、同じ時期に同じ行動をとる学生が目立ったが、いまは早期化と分散化が同時に進む。早く動き内定を得る学生もいれば、卒業間際に動き出す学生もいる。内定後に納得できず、やり直す学生もいる。就職活動の「時期」は一つではなくなった。 

その変化はキャンパスの風景にも表れる。以前は学内がリクルートスーツで溢れたが、いまはそうでもない。周囲と比べられたくない、余計な評価を避けたい。そうした空気の中で、就職活動をこっそり進める学生も増えたという。相談相手が友人や先輩から、AIへ移っていくのも自然な流れだ。

そして、生成AIの浸透が「書類」の意味合いを変えた。エントリーシートはAIの助けで体裁が整いやすくなった一方、一般的な表現にまとまりやすい。読む側から見れば、まとまっているが「その人の輪郭が薄い」文章になりがちである。だから大学の支援も、文章を整える段階で止まらない。就職指導課では課員が面接官役となり、対面の問答を重ねる。すると学生は、相手の視線や沈黙、自分の緊張といった「対面ならではの条件」に初めて直面し、書類に書いた出来事の背景や感情をうまく運べないことに気づく。そこから自己探索が進み、AIが整えた以上の「自分の言葉」がようやく生まれてくる。 

企業側もまた、学生と直接会わない書類の段階では判断が難しい。だからこそ近年は、オープンカンパニーのような短期の仕事体験プログラムを用意し、接点を増やす動きが主流になった。学生も五感で感じ、「自分の感情が動くか」で志望を決める場面が増えている。書類の完成度が上がるほど、最後は体験と対話が決め手として浮かび上がってくるのである。

AI時代、個性を掘り当てる「問い」の重要性

AI時代に、キャリア支援の人間は何を担うのか。友寄さんは、AIが得意な領域を冷静に認める。心理学や知識の体系は統計の積み重ねでもあり、AIが強い分野だという。実際、現場では「AIを使いこなせないキャリアコンサルタントが不利になる」と実感している。いまや、AIを使うこと自体が特別ではない。

それでも、人に残る役割は明確だ。それは、相手の理解の「ゆらぎ」を確かめながら言葉を届けること、そして何より「問い」で個別解へ導くことにある。テキストを読ませるだけならAIでもできる。しかし、人は感情の生き物であり、心から納得しなければ動けない場面がある。表情を見て、間を取り、どのタイミングでどの言葉を渡すかを調整する。その積み重ねが、行動につながる納得感をつくる。

「問い」の力は、学生の「らしさ」を掘り当てる。たとえば食品業界志望の学生が「お客様の笑顔が好き」と言うとき、表面だけを整えればよくある志望動機になる。だが深掘りすると、居酒屋のアルバイトで常連客ごとに工夫して喜ばせた経験が核だった、という具合に具体が立ち上がる。そこから「提案が通った手応えが忘れられない」「相手の要望を汲み取った課題解決型の営業がしたい」といった本人の原体験が言語化され、選ぶべき業界や職種の解像度が上がる。一般論を返すだけでは届かない「学生それぞれの答え」は、問いの往復でしか出てこない。

友寄さん自身のAI活用は実務的だ。主に、マネジメントや人間関係の悩みを整理する壁打ちとして使うという。ポイントは、プロンプト技巧よりも「状況を素直に書く」ことだ。重要なのは、AIを結論製造機にしないことでもある。AIは、WEBで調べても出てこない問いや、判例や専門書が少ない分野の法解釈などでは回答が怪しく感じることがあるという。だから、重要な案件ほどプロンプトを深めつつ、専門家の視点で抜け漏れを確認する。AIを使うほど、検証と倫理観が問われる。 

さらに印象的なのは、AIが就職活動の入口そのものを変え始めている点だ。学生の中には、日頃から話しかけて自分を理解しているAIに壁打ちを続け、「自分に向いている企業はどこか」と問うて、知名度の高くない企業名に辿り着き、実際に入社を決めた例もあったという。就職情報の集め方が変わり、個別化が進む時代である。だからこそ最後に効くのは、情報の多さではなく、問いの質だ。自分は何に心が動き、何に違和感を覚えるのか。問い続けて言葉にできることが、AI時代に就職と向き合い、考える大事な要素になるのかもしれない。

AI活用のヒント】

・AIで整えたぶん、自分への問いを増やす。背景や理由を言葉にするのも重要
・構えたプロンプトでなくても大丈夫。状況をそのまま書いて壁打ちもできる
・重要な結論ほど検証は不可欠。一次情報と専門家確認で担保する