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2025.11.25

まずは絵本でもいい。仕組みを理解しよう~【連載】あの人にAIについて聞いてみた

AIの進化は、仕事・生活・学びなどあらゆるシーンに変化を及ぼしている。実践者はその進化をどのように感じ、使いこなしているのか。本連載では、多様な領域で活躍する人々の「AI観」を探る。今回は、ITと福祉・教育・地域支援をつなぐ社会起業家として活躍。AIや宇宙事業も手掛けるハッピー・ファム合同会社代表の五嶋 耀祥さんに話を聞いた。(AI Base編集部)

ハッピー・ファム合同会社 代表/社会起業家・ITコンサルタント
五嶋 耀祥さん

北海道苫小牧市出身。苫小牧工業高等専門学校で情報工学と電子生産システム工学を学び、卒業後はシステムエンジニアとしてビッグデータ解析や業務システムの構築に従事。その後、大学事務職や子育てを経て、2015年にNPO北海道ネウボラを設立し地域支援を開始。2019年にハッピー・ファム合同会社を設立し、DX推進・IT教育・宇宙産業支援・女性や親子支援など多分野で活動。2021年には一般社団法人ファミリー支援INV協会を創設し代表理事を務める。ITと福祉、教育を横断するソーシャルビジネスの担い手として注目される。

AIがもたらすのは「定型業務からの卒業」と新しい発想の余白

ハッピー・ファム合同会社 代表の五嶋 耀祥さんは、AIの急速な進化について「もはや定型業務から卒業すべき段階に来ている」と語る。「自分の仕事にAIは欠かせません。文章作成をはじめ、AIに任せられる領域はどんどん広がっています」(五嶋さん)。資料作成や思考整理に費やしていた時間が大幅に圧縮され、仕事の進め方そのものが変わりつつあるという。

こうした視点には、五嶋さんが多領域にまたがる事業を展開してきた背景が大きい。五嶋さんが代表を務めるハッピー・ファム合同会社は、札幌を拠点にファミリー支援、ITコンサルティング、DX推進、プログラミング教育、さらに宇宙関連事業まで手がける多角的な企業である。2015年にはNPO北海道ネウボラを創設し、子育て支援や女性のキャリア支援に取り組むなど、福祉とITの双方に深く立脚した活動を続けてきた。「子育て支援から宇宙ビジネスまで幅広い領域を支援する中で、情報処理のスピードや判断の質を上げる方法を常に探してきました。AIはそのギャップを埋める存在です」と嬉しそうに語る。

研究活動においてもAIの効果は顕著だ。子ども虐待防止に関する学会発表の準備では、調査データの解析にAIを活用。従来では捉えづらかったパターンが可視化されたという。「データ解析の可能性は大きい。『これをやれば誰かを救える』というイメージがどんどん湧いてくる」。さらに衛星データを活用した宇宙領域の事業構想にもAIを取り入れ、「社会課題に対するアプローチの幅が一気に広がる」と手応えを語る。

一方で、北海道内ではAI導入が「使っているだけ」の段階にとどまる企業も少なくない。「本質的な活用提案の余地は大きい」と五嶋さん。単純な業務代替ではなく、発想力や分析力を引き出すための「使い方そのもの」が問われているという。「AIが人の創造性を奪うのではなく、『人がより深く考えるための余白をつくる存在』であるという視点が重要です(五嶋さん)。

AIを「相棒」として育てる。仕組みへの理解も使いこなしの第一歩

五嶋さんのAI活用は、ビジネスから生活まで幅広い。最も頻度が高いのはChatGPTを使った「壁打ち」だ。「週1ペースで相談しています。状況を説明すると『今はこうした方がいい』と提案してくれる。長く使うほど相棒として成熟してくる感覚があります」(五嶋さん)。プレゼンのシナリオづくりやビジネスアイデアの整理、判断の優先順位付けなど、多くの場面で思考の質が向上したという。

また、AIを「自分を映す鏡」として使う場面も多い。悩みや構想の断片をAIに投げると、「感情ではなく構造で状況を示してくれるため、整理が早い」と語る。加えて、長文メールの要約や文章の再構成、学術資料の理解支援など、複雑な情報処理の負荷を下げる用途でも大きな効果を感じている。「AIが前処理を担ってくれることで、考えるべき本題に集中できるんです」(五嶋さん)。

ただし、AIの回答品質は入力情報の質に左右される。「正しい情報源を渡さないと、誤った答えを返してしまう。だから『このデータを参照して』と指示する癖をつけています」。AIを便利な代替手段としてではなく、共同作業者として扱う姿勢が貫かれている。

さらに、AIの仕組みに対する理解は活用精度を高める鍵になるという。五嶋さんが具体的に勧める教材が、リンダ・リウカス著『ルビィのぼうけん AIロボット、学校へいく』だ。


(引用=Amazon)

「AIが『どう考えているのか』を感覚的に理解できる本。子どもにも大人にも最適です」(五嶋さん)。自身が指導するプログラミング教室でも同書を取り入れ、子どもたちがAIの原理を短時間で理解する場面を何度も見てきたという。

AIを「魔法の箱」ではなく、仕組みを理解した上で相棒として育てていく——その姿勢は、ビジネスパーソンにとっても大きな示唆を与えてくれる。

AI活用のヒント】

・AIに任せられる領域を手放し、人は発想や分析に集中する
・AIには正しい情報源を渡す。共同作業者として扱う視点が重要
・仕組みの基礎を学ぶことで、AIへの理解と使いこなしが格段に高まる