●経費精算書のチェックに毎回膨大な時間がかかっている
●確認漏れが発生し、監査で指摘を受けることがある
●経費精算ルールが複雑で、チェック担当者によって解釈にバラつきがある
●担当者の負担が大きく、本来の業務に支障が出ている
経費精算業務、特に提出された経費のチェック作業は、多くの企業で頭を悩ませている業務です。「ルールに沿っているか確認する」という一見シンプルな作業のはずが、実際には膨大な時間と労力を消費し、それでも確認漏れが発生してしまうケースは少なくありません。
本記事では、ChatGPTを活用して、経費精算のチェック業務を効率化し、確認漏れを減らす具体的な方法をご紹介します。
経費精算チェックの典型的なワークフローを見てみましょう。
1.提出された経費精算書の受け取り(5分)
2.経費カテゴリの適切性確認(10分)
3.金額上限のチェック(10分)
4.証憑添付の確認(15分)
5.例外ルールの適用判断(10分)
6.差し戻しまたは承認(5分)
上記の例では1件あたりおよそ1時間もかかっており、数十人規模の組織では月に数十時間が費やされているケースも少なくありません。特に、以下のような状況では確認漏れのリスクが高まります。
●繁忙期で短時間に多くの精算書が集中する
●複数の部署や海外拠点など異なるルールが混在している
●経費処理の規定が複雑で、例外も多い
●チェック担当者が入れ替わったばかりである
このように、経費精算のチェックは単調でありながら高い集中力を要し、担当者の負担が大きい業務なのです。
ここからは、ChatGPTを活用して経費精算チェックを効率化し、確認漏れを削減する具体的な方法をご紹介します。
効率的なチェック体制を構築する第一歩は、自社の経費ルールを明確にデジタル化することです。多くの企業では、経費規定が以下のような形で存在しています。
●紙のマニュアルや古いPDFファイル
●イントラネット上のテキスト情報
●担当者の「暗黙知」として存在
まずは、これらの情報をChatGPTに理解できる形でまとめることから始めましょう。以下のようなプロンプトでChatGPTに指示します。
<プロンプト>
以下は当社の経費精算ルールです。これを元に、経費精算チェックのためのガイドラインを作成してください。あいまいな表現や解釈の幅があるルールについては、チェックポイントとして明確にしてください。
【交通費】
・公共交通機関:実費支給(タクシーは22時以降または荷物が多い場合のみ可)
・マイカー:距離に応じて1kmあたり25円を支給
【宿泊費】
・国内:上限12,000円/泊(都心部は15,000円まで可)
・海外:地域別の上限額あり(別表参照)
【飲食費】
・社内会議:一人あたり上限1,000円
・接待:事前申請の場合、一人あたり上限8,000円
・出張時の食事:朝食1,000円、昼食1,500円、夕食2,500円まで
【その他】
・申請期限:発生から30日以内
・領収書:5,000円以上は原本必須
・経費分類の例外は部長決裁が必要
<出力結果>
このように、あいまいだった経費ルールを明確なチェックリスト形式に変換することで、確認作業が格段に効率化されます。
次に、チェック対象となる経費精算書のデータを構造化し、ChatGPTが処理しやすい形に整理します。このステップでは、Excelで作成された経費精算データをテキスト形式に変換するか、CSV形式でデータを抽出し、ChatGPTに入力します。
<プロンプト>
以下の経費精算データをチェックしてください。先ほど作成したガイドラインに沿って、問題がある項目を指摘してください。
申請者:山田太郎
部署:営業部
申請日:2023/02/15
経費発生日:2023/01/20
[経費項目]
1. タクシー代, 2023/01/18, 3,200円, メモ:「客先訪問後、21:00に利用」
2. 宿泊費, 2023/01/18, 14,500円, メモ:「大阪出張」
3. 接待費, 2023/01/19, 32,000円, メモ:「取引先4名+自社2名」
4. 新幹線, 2023/01/20, 14,380円, メモ:「東京-大阪往復」
5. 昼食代, 2023/01/19, 2,100円, メモ:「出張中の昼食」
<出力結果>
このように、AIは経費データを自動的に分析し、ルールに照らして問題のある項目を指摘してくれます。人間がチェックする場合と比較して、見落としがなく、一貫性のある判断が可能になります。
初期段階では、ChatGPTのチェック結果と人間による判断に差異が生じる可能性があります。そこで、以下のようなフィードバックループを作り、精度を向上させていきます。
1.初期チェック:まずChatGPTにチェックさせる
2.人間による確認:経験豊富な担当者が結果を確認
3.フィードバック:判断の違いがあった場合、その理由を説明
4.ルール更新:必要に応じてガイドラインを更新
例えば、以下のようなプロンプトでフィードバックを行います。
<プロンプト>
先ほどの経費チェック結果について、以下の点で実際の運用と異なります。今後のチェックに活かせるよう、ルールの理解を更新してください。
1. タクシー利用について:当社では「客先訪問後の帰社」の場合、21時以降のタクシー利用を例外的に認めています
2. 宿泊費について:大阪市内であれば、都心部の上限(15,000円)が適用されます
これらの例外を含めたガイドラインの更新版を作成してください。
<出力結果>
このようにフィードバックを繰り返すことで、実際の運用ルールに合わせたチェック体制が構築できます。
経費精算チェックでの成功体験を元に、以下のような活用拡大が考えられます。
経費を申請する社員自身が、提出前にChatGPTを使ってセルフチェックを行えるようにします。これにより、不備のある申請が減り、業務全体の効率が向上します。
「この経費は認められるか?」といった質問に対して、過去の判断事例を元に回答できるようにします。
どのような例外が多いのか、ルールのどこが分かりにくいのかなど、データを分析して経費処理規定自体の改善につなげます。
また、効果測定としては、以下のような指標を活用しましょう。
●チェック時間の削減率(導入前後の比較)
●差し戻し率の変化(申請の質の向上)
●監査指摘事項の減少(コンプライアンス強化)
●担当者の満足度(業務負担の軽減)
AIを活用した経費精算チェックの効率化は、以下の4ステップで実現できます。
1.経費ルールの明確化とデジタル化
2.精算書データの構造化
3.フィードバックによる精度向上
4.活用の拡大と効果測定
重要なのは、「人間の判断を支援するツール」としてAIを位置づけることです。経費精算は地味ながらも組織運営に不可欠な業務であり、AIの力を取り入れることで担当者の負担軽減と精度向上を同時に実現できます。
このアプローチにより、従来は1件あたり1時間程度かかっていた経費チェック作業を、質を落とすことなく15分程度に短縮することも可能です。ぜひ、本記事で紹介した手順を参考に、自社の経費精算プロセスの改善に取り組んでみてください。