●AIに質問しても、思ったような回答が得られない
●何度も聞き直しをして時間を無駄にしている
●AIの回答が長すぎたり、短すぎたりして使いづらい
●「AIは使ってみたけど、思ったほど役に立たなかった...」と感じている
ビジネスの現場でAIツールを活用したいと思っても、「どう質問すれば良いかわからない」「回答が的外れで時間を無駄にしてしまう」という悩みを抱える方は少なくありません。
本記事では、コミュニケーションの基本である「5W1H」を応用して、ChatGPTやClaudeなどのAIとの会話の質を向上させる具体的な方法をご紹介します。正しい質問の仕方を身につければ、AIは驚くほど頼れるビジネスパートナーに変わります。
まずは、AIとの一般的な会話でよく見られる問題点を整理しましょう。
1.抽象的な質問:「マーケティングについて教えて」といった漠然とした質問では、AIは何を求められているか把握できず、一般論を返すことになります。
2.目的の不明確さ:「新規事業のアイデアが欲しい」だけでは、業界や規模、予算など重要な条件が不明なため、具体的で役立つ提案は得られません。
3.前提条件の欠如:「この企画書をチェックして」と言われても、チェックする観点(法的問題、誤字脱字、論理性など)が明示されていないと、AIは何に注目すべきか判断できません。
4.期待する出力形式の未指定:回答の長さや形式(箇条書き、表、ステップバイステップなど)を指定しないと、AIは自分で判断するしかありません。
こうした曖昧な指示は、以下のような具体的な問題を引き起こします。
●何度も聞き直す時間的ロス(1回の質問で3〜5分、修正を重ねると20分以上かかることも)
●得られた情報の信頼性の低下(AIが推測で回答するため)
●AIに対する不信感の醸成(「結局使えない」という誤った結論に至る)
●部門内でのAI活用スキルの格差(適切な質問ができる人とできない人の生産性に差が生まれる)
そんなAIとの会話の問題を解決するために、ここからは基本の「5W1H」を応用したAIへの質問テクニックをご紹介します。
AIに質問する前に、まず自分自身で「なぜこの情報が必要か」を明確にしましょう。目的を伝えることで、AIはより適切なコンテキストで回答できるようになります。以下のような目的の明示は、AIの回答精度を大きく向上させます。
●「顧客向けの提案書を作成するために...」
●「社内会議で説明するために...」
●「初心者にもわかりやすく説明するために...」
では、実際の例を見てみましょう。
何について(What)、誰に関して(Who)の情報が欲しいのかを明確にすることで、AIからの回答の焦点が絞られます。
いつ(When)、どこで(Where)という情報を追加することで、AIはより状況に適した回答を提供できます。
どのように(How)回答して欲しいかを指定することで、すぐに活用できる形式で情報を得られます。
ここからは、業務シーンごとの具体的な5W1Hテンプレートをご紹介します。これらをコピーして、[ ]内の部分を自分の状況に合わせて変更するだけで、質の高いAI会話が可能になります。
<プロンプト>
以下の条件で営業資料の[概要・アウトライン・原稿]を作成してください。
Why(目的):[新規顧客への提案・既存顧客の契約更新・新商品の紹介]のため
What(内容):[商品・サービス名]について、[特徴・メリット・導入事例]を中心に
Who(対象):[業種・職種・役職]の方々向け
When(時期):[四半期末・ボーナス時期・年度予算策定時期など]に提案予定
Where(場所):[オンライン会議・訪問営業・展示会など]での利用
- 長さ:[スライド枚数または文字数]
- トーン:[フォーマル・カジュアル・専門的]
- 必須要素:[価格表・導入ステップ・ROI計算など]
- 避けるべき表現:[競合批判・過度な約束など]
実際に具体例を当てはめてみると、以下のようなプロンプトが出来上がります。
<具体例をあてはめたプロンプト>
以下の条件で営業資料の原稿を作成してください。
Why(目的):既存顧客の契約更新のため
What(内容):クラウド型勤怠管理システム「WorkTracker」について、今年追加された新機能と継続利用のメリットを中心に
Who(対象):中小企業の総務部長・人事部長向け
When(時期):年度末の契約更新時期に提案予定
Where(場所):オンライン会議での利用
- 長さ:A4で2ページ程度
- トーン:専門的だが平易な表現で
- 必須要素:コスト削減効果の具体例、他社から乗り換えた場合の移行サポート内容
- 避けるべき表現:競合システムの批判、実証されていない効果の約束
企画・マーケティングの業務シーンでは、以下のプロンプトをカスタマイズするとよいでしょう。
<プロンプト>
以下の条件で[マーケティング施策・販促企画・市場調査]についてアイデアを出してください。
Why(目的):[認知拡大・売上向上・顧客満足度向上]のため
What(対象):[商品・サービス・ブランド名]について
Who(ターゲット):[年齢層・性別・職業・興味関心]の方々
When(時期・期間):[季節・イベント・〇か月間]を想定
Where(展開場所):[オンライン・店舗・地域]で実施
- 予算規模:[予算の目安]
- KPI:[達成したい指標と目標値]
- 制約条件:[法規制・ブランドガイドライン・避けるべき表現]
- 出力形式:[企画書・アイデアリスト・ステップ解説]
事務・管理業務の業務シーンでは、以下のプロンプトをカスタマイズするとよいでしょう。
以下の条件で[規定文書・マニュアル・社内通知]を作成してください。
Why(目的):[業務標準化・リスク低減・情報共有]のため
What(内容):[対象となる業務・ルール・システム]について
Who(対象者):[部署・役職・経験レベル]の社員向け
When(適用時期):[即時・次月から・特定日]より適用
Where(適用範囲):[全社・特定部署・特定拠点]に適用
How(形式):
- 長さ:[ページ数または文字数]程度
- 構成:[章立て・見出し構成・必須セクション]
- 表現:[明確な指示・曖昧さを排除・例示を含める]
- 特記事項:[特に強調すべき点・例外規定の有無]
それでは、実際のビジネスシーンでの会話例を見ながら、5W1Hアプローチの効果を確認してみましょう。
【改善前】
<プロンプト>
SDGsについての資料を作って
<出力結果の例>
【改善後】
<プロンプト>
SDGsについての資料を作成してほしいです。
Why(目的):自社の新入社員研修で使用するため
What(内容):SDGsの基本概念と、特に製造業が取り組みやすい目標について
Who(対象):製造現場の新入社員(20代前半、SDGsの知識はほぼなし)
When:来週の研修で使用予定
Where:工場内の会議室でのグループワークで使用
- PowerPoint形式で10枚程度
- 専門用語は極力避け、具体例や図表を多用
- 各スライドに簡単な解説文を付ける
- 最後に「自分たちができること」のディスカッションポイントを入れる
<出力結果の例>
【改善前】
<プロンプト>
業務効率化について相談したい
<出力結果の例>
【改善後】
<プロンプト>
業務効率化について相談したいです。
Why:月末の請求書処理業務が毎回深夜までかかってしまうため改善したい
What:紙の請求書を確認し、承認を得て、会計システムに入力する一連の作業
Who:経理部3名(うち2名は入社2年目、パソコンスキルは中程度)
When:毎月25日〜月末に集中する作業
Where:本社オフィス内で実施
- 予算は5万円/月以内で検討
- 社内のITリソースは限られているため、外部ツールの活用が望ましい
- 具体的な手順とツールの提案が欲しい
- 導入までのステップも含めて教えてほしい
<出力結果の例>
ChatGPTやClaudeなどのAIとの会話は、基本の「5W1H」を意識するだけで劇的に改善します。実際の運用においては、以下のような点を意識しましょう。
1.目的を明確に伝える(Why)
2.具体的な対象を特定する(What, Who)
3.時間的・空間的コンテキストを提供する(When, Where)
4.求める方法や形式を指定する(How)
このアプローチは、調査・分析の依頼、資料作成、アイデア出し、問題解決など、あらゆるビジネスシーンのAI活用で効果を発揮します。
初めは5W1Hをすべて網羅するのが面倒に感じるかもしれませんが、テンプレートを作って繰り返し使うことで習慣化できます。実際に試してみると、AIとの会話が格段に効率的になり、得られる回答の質も大幅に向上することを実感いただけるでしょう。
AIはあくまでツールです。使い手である私たちが「何を求めているのか」を明確に伝えることで、初めてその真価を発揮します。基本の「5W1H」という単純なフレームワークを活用して、AIとの会話をより生産的で価値あるものに変えていきましょう。